LIVING 住まい・インテリア・暮らし

シェア

地方移住したいけれど、ためらっている人へ。里山ライフ雑誌『Soil mag.』編集長に聞く、
都市の近くで叶える“背伸びしない移住”

TAG

やり直しも失敗もOK! 背伸びしない地方移住とは?

20220415_atLiving_soilmag_005

どこを移住先に選ぶかは人それぞれ。こればかりはご縁としかいいようがないと曽田さん。

「あちこちの移住先を吟味して情報を調べ尽くしてから移住を決める人って、実はあまりいないというのが、多くの移住者を取材している私の実感です。たまたま旅行で訪れて気に入ったとか、知り合いが近くにいたとか、わりと直感的に決めている人も多い。……というのも、これだけ移住へのハードルが下がっているいま、仮に住んでみてもし自分に合わなかったり、うまくいかなかったら帰ってきたっていいんです。逆にそのくらいの考えでいた方が、地方移住ってうまくいくのかなと感じていて」

1回で何が何でも成功させなければならない……地方移住はそんな風に “思い詰めて決める”ような片道切符のものではないというのが、曽田さんの考え。

「できれば、家はいきなり購入しない方がいいですね。最初は町営住宅などを借りて地域の人と関係性を深めていけば、その先で耳寄りな物件情報を得られたりしますから。あとは、東京など大都市からの移住に不安があるなら、私のようにその利便性を完全に手放さないという選択肢もある」

曽田さん自身、地域コミュニティにはすぐになじめたのでしょうか?

「東京ではご近所付き合いというのがほぼなかったので、奥多摩に来てから地域社会というものを初めて体験したような感じです。ただ、その心配はまったくなかったですね。今はどこの自治体も移住者を歓迎してくれる傾向がありますから、人間関係でがんじがらめになるということはあまりないのではないでしょうか。自分なりに距離感をもってお付き合いを楽しめばいいと思います。逆に従来の東京の友人たちは、リフレッシュがてら奥多摩に遊びに来てくれるようになりました。移住前に築いてきた人間関係も、いい距離感でキープできる安心感は大きい。これは都市近郊へ移住するメリットのひとつだと思います」

リゾート地などで働きながら、同時に休暇を取れる仕組み、ワーケーション。ロングステイで地域の魅力をじっくり味わえるため、移住のお試しとしても有効です。(『Soil mag.』より)
リゾート地などで働きながら、同時に休暇を取れる仕組み、ワーケーション。ロングステイで地域の魅力をじっくり味わえるため、移住のお試しとしても有効です。(『Soil mag.』より)

 

自分を表現する手段として地方移住を考えてみる

20220415_atLiving_soilmag_006

一方で、若い世代の移住者同士がつながって、新たなムーブメントを起こすといった動きも、日本全国で活性化しているといいます。

「同じ移住者同士というだけで、価値観が合う人も多かったりするんです。そこで新しい仕事やモノ創りなどが生まれている事例は本当に多いですし、今後の田舎暮らしはダブルワーク、トリプルワークがスタンダードになっていくのではないかと感じています。田舎って閉鎖的に思えるかもしれませんが実は“隙間”も多いというか、場合によっては移住者が新しいことを始めやすい環境だったりもするんですよね。たとえば東京で起業してそこで戦おうとすると、たくさんの資金や綿密なブランディングも必要になります。でも人が少ない田舎だったら、自分の得意なことで看板を掲げていると、周りからちょっとした仕事がもらえたり、声をかけてもらえたりすることが実際によくある。都市で活動するよりも、実は田舎の方が自分を表現しやすい環境だったりするんです」

これまでの仕事や人間関係は継続させながら、新たなことにも挑戦してみたい。そんな人にとっても、都市と田舎暮らしのいいとこ取りができる“背伸びをしない”地方移住は、ひとつのきっかけになるのかもしれません。

「地方移住は今後ますます当たり前の選択肢として定着していくと思っています。これは個人的な願望でもありますが、それぞれに特色を持ったいろいろな地域が活性化していけば、個性的で豊かな暮らしをより多くの人が実現できるようになるし、日本という国の発展にもつながっていくはず。実際世の中は、そのような未来へ向けて少しずつ動き出していると感じています」

Profile

Soil mag.編集長 / 曽田 夕紀子

2021年10月に創刊した、移住と里山ライフのカルチャーマガジン『Soil mag.』の編集長を務める。自身も23区内から奥多摩に家族で移住し、都市部へのアクセスを確保しながら自然を満喫できる里山ライフを実践している。

 

取材・文=小堀真子