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一点もので、一生もの。「ハンドメイドラグ」を
取り入れた部屋づくり

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部屋の印象を一変させるアイテムのひとつが、ラグ。世界的に有名なラグといえば連想される「ペルシャ絨毯」は、価格も天井知らずですが、ほかにも「ギャッベ」や「トライバルラグ」など、ラグのなかにもたくさんの種類が存在し、色合いや価格、込められたストーリー性まで実はさまざまです。

新生活シーズンを前に、世界のラグに関する基礎知識やインテリアへの取り入れ方について、知っておきましょう。中目黒にあるラグ専門店「Layout(レイアウト)」のブランドマネージャー平井香さんと、店長の小松智美さんにお話を伺いました。

違いはどこにある?
ハンドメイドラグの種類と特徴

雑誌やテレビで紹介されたり、百貨店でイベントが開催されたりと、近年目にすることが増えた「ギャッベ」や「キリム」といった名前。しかし、それぞれの特徴については詳しく知らない、という人も多いのではないでしょうか。

常時500枚以上のラグを取り扱う、中目黒にあるLayoutのショールーム。サイズも、リビングに敷く大きなサイズからチェアマットサイズまで、幅広く取り揃えています。

「高級品として知名度の高い『ペルシャ絨毯』を含め、これらのラグに共通しているのは『ハンドメイド』ということ。すべて職人の手で一つひとつ丁寧に織られている、一点もののラグなんです。トルコやアフガニスタン、モロッコ、北アフリカなどさまざまな国が手織りの絨毯を作っていますが、『Layout』では主にイランで買い付けたハンドメイドラグを販売しています」

それでは実際に、代表的なハンドメイドラグのそれぞれの特徴を見ていきましょう。

1.ハンドメイドラグの最高峰「ペルシャ絨毯」

「ペルシャ絨毯は、イラン国内で作られた手織の絨毯のことを指します。ですので、広義的にはイランで作られた『ギャッベ』や『トライバルラグ』なども、ペルシャ絨毯の一種であると言っても間違いではありません。ただ、一般的には繊細な模様が特徴の高級感のある絨毯を、ペルシャ絨毯と呼ぶことが多いです。

素材は、シルクとウールの2種類です。シルクは美しい光沢感となめらかな触り心地が魅力。額装したり、タペストリーとして飾ったりする方も多いですね。一方ウールは、美しさはもちろん丈夫で実用性もあるので、インテリアに取り入れやすいと思います。価格は、製作に手間と時間がかかるため、他の絨毯よりも少し上がりますが、職人の技術やウールの品質、産地などで価格が変動するため、何千万円もするシルクの高級品もあればカジュアルなものもたくさんあります。たとえばリビングサイズですと、当店では40万円くらいのものからご用意しています。

ペルシャ絨毯は、イランの長い歴史のなかで磨かれた染織技術と繊細なデザインが何よりの魅力。どんなお部屋でも洗練されたエレガントな空間に演出してくれると思います」

2. 生活の道具から生まれた個性豊かなラグ「トライバルラグ」

「トライバルラグは『部族のラグ』という意味で、遊牧民が自分たちの飼っている羊や山羊の毛を紡ぎ、家の中で使う生活のための道具として受け継がれてきたものです。床に敷くのはもちろん、荷物を入れる袋として使ったり、出入口にのれんのように掛けて使ったり……。しなやかで薄手のものが多いですが、生活のなかで長く使うことを前提としているので、機能性と耐久性に優れているラグなんですよ」

イラン南部のシーラーズという街に暮らすカシュガイ族が織った絨毯。色とりどりの花々と、イランで幸せを運ぶ象徴とされている鳥のモチーフが織り込まれています。

部族や地域ごとにデザインのバリエーションがあるのもトライバルラグの魅力のひとつです。デザインには、その土地の気候やともに暮らす動物、身近な草花など、生活に関わるものすべてが影響しているのだそう。部族のなかでもファミリーごとに雰囲気が大きく変わりますし、多種多様なデザインがありますので、ファッションのように個性的なスタイリングを楽しめると思います。価格はリビングサイズで、だいたい10万円台くらいから。ペルシャ絨毯に比べると手に取りやすいので、『いいものを長く使いたい』という人にぴったりだと思います」

イラン東部、アフガニスタン、パキスタン周辺のエリアに昔から暮らすバルーチ族の絨毯は、ネイビーと深い赤のシックで落ち着いた色使いが得意。

3. 厚みと素朴なデザインが魅力の「ギャッベ」

「ギャッベは、トライバルラグと同じく遊牧民の暮らしの道具として使われてきたラグのこと。イラン南部に暮らすカシュガイ族という部族が飼っている羊の毛で織りあげる、伝統的なハンドメイドラグです。ギャッベの一番の特徴は、毛足が長く厚みがあるところ。テントで暮らす遊牧民の人たちが、テント内に敷いて、床代わりのように使っていた絨毯がルーツです。手触りはフカフカとしていて、座ったり寝そべったりすると、とても気持ちいいんですよ。床でくつろぐことが多い人にオススメしたいラグですね」

リサ・ラーソンのような動物柄が可愛らしいギャッベ。Layoutでは、チェアマットサイズ(40×40cm)であれば9,900円から購入可能。

「デザインや色合いは素朴で可愛らしいものが多く、小さめのギャッベを部屋に飾ってアートとして楽しむ方も多くいらっしゃいます。さらに、ギャッベやトライバルラグに描かれた柄には、一つひとつ願いが込められているというのも特徴です。たとえば、“生命の樹”と呼ばれる木が描かれたデザインは『健康』、山羊や羊は『財産』、鹿は『家庭円満』の象徴とされています。他にもさまざまなモチーフがあるので、ラグに思いを乗せて家族や友人にプレゼントしてみるのもいいかもしれませんね」

4. 毛足のない平織りの織物「キリム」

写真の絨毯をよく見ると、フカフカとした部分と毛足のない部分があるのがわかります。この毛足のない部分のことを一般的に「キリム」と呼びます。

「キリムとは、遊牧民の伝統的な“平織り”の織物のことをいいます。わかりやすく言い表すのであれば、『毛足のないフラットな敷物』でしょうか。キリムはイランよりもトルコのものが有名で、トライバルラグやギャッベと同じく、その土地や部族ごとに受け継がれてきたデザインがあるようです。Layoutでは残念ながらキリムの取り扱いがございませんが、薄手で軽く持ち運びやすく、床に敷くことはもちろん、ファブリックとしてソファに掛けて使うなど、いろいろな楽しみ方ができると思います」

初めてのハンドメイドラグ
選ぶ際のポイントは?

それぞれのハンドメイドラグの特徴と楽しみ方を知り、お部屋に取り入れてみたい。そう思っても、何を基準に選べばよいか悩んでしまいますよね。店長の小松さんに、初めてハンドメイドラグを選ぶ方へのワンポイントアドバイスをいただきました。

チェアマットサイズ(30×30cm~40×40cm)のトライバルラグ。ひとつとして同じものがなく選ぶ楽しみも。

「サイズや色、予算などはもちろん選ぶ際の大切な要素だと思います。ですが、それ以上にたくさんのラグを見ていただくことが一番だと思っています。ハンドメイドラグは一点もので、全てのラグで表情が違うんです。だからこそ、たくさんのラグを見ることで、本当に自分が好きだと思えるひとつに出会えるはずです。過去に『赤以外の色がいい』とご来店されたお客様がいらっしゃったのですが、最終的にチョイスしたものが赤いラグだった! なんてことも。その人との相性や、訴えかけてくるようなメッセージを感じる……そんな時が本当にあるのだと思います。

そして、自分のお部屋に置いてある様子をイメージできるかどうかは大事ですね。お部屋のカーテンや床との色に合ったラグなどご提案することも可能ですので、初めて絨毯を取り入れようと思った時は、ぜひお部屋の敷きたい場所のお写真をお持ちいただけるとうれしいです」

玄関マットサイズ(60×40cm) のギャッベ。13,200円からと手に取りやすい価格帯で初めてハンドメイドラグを取り入れる人におすすめ。

「初めてラグをお迎えする人におすすめしたいのが、玄関マットサイズのハンドメイドラグ。玄関マットはもちろん、ベットサイドや洗面台に敷いたり、床に敷いて座布団のように使ったり、いろいろな場所で取り入れやすいサイズだと思います」

夏はひんやり、冬はポカポカ!
オールシーズン使えるラグのお手入れ方法

「ご紹介してきたハンドメイドラグのもうひとつの魅力は、オールシーズン快適に使えるところ。ウールのラグは、表面温度を20度前後に保ってくれるので、冬は極端に冷えすぎず、夏は極端に暑くならないんです。秋冬の寒い日にぴったりというイメージがあるかもしれませんが、夏の暑い日、家に帰って玄関に敷いたラグの上に足をのせると、ひんやりさらっとしていて本当に気持ちいいんですよ!」

オールシーズン使えてしまうからこそ、日々のお手入れは大切。お気に入りラグを長く使うためにも、おうちでできるお手入れ方法を教えていただきました。

■ 掃除機をかける際のポイント

「ウールのラグを撫でると、毛の流れがあるのがわかると思います。掃除機をかける際は、なるべくその毛の流れに沿ってかけてあげてください。そうすると毛足が寝て、その上にゴミなどが乗っているような状態になるので、汚れを取り除きやすくなります。ちなみに、厚みがあるギャッベだと掃除を諦めてしまうこともありますが、ロボット掃除機も問題なく使用できます。掃除機をかける際は、四隅についたぼんぼんや、フリンジの巻き込みに注意してくださいね」

■ 飲み物をこぼしてしまった時の対処法

「飲み物などの液体をこぼしてしまった場合は、ティッシュなどで水気を吸い取るだけでOK。ウールは油分が豊富な素材なので、こぼした直後であれば液体を浮かしてくれるんです。もしこぼしてから時間が経ってしまった場合は、シャンプーを100倍くらいに薄めて泡立て、泡を汚れの上にぽんと置いてください。洗顔と同じように、汚れを泡で浮かせて落とすというイメージですね。中性洗剤などは毛がゴワゴワしてしまうので要注意です。

それでも汚れが落ちない! という場合はクリーニングに出すことをおすすめします。当店でもクリーニングはもちろん、糸のほつれを直すメンテナンスなども行っています。職人の手作業で作られたものだからこそ、また職人の手で直すことも可能なんです。そうして何十年も手入れしながら育てていくことができるのが、ハンドメイドラグの面白さでもあると思います」

部屋のタイプ別で見る、
おすすめハンドメイドラグ 3選

Layoutでは、部屋のイメージに合わせてラグの提案もしているといいます。今回は特別に、部屋のタイプ別でおすすめのハンドメイドラグを3つご紹介いただきました。ぜひ参考にしてみてください。

1.和室には、落ち着きのある“ほっこり”したラグを

ギャッベ 193×146cm

「和室の畳の上には、ギャッベの落ち着いた色合いのものをおすすめしたいです。和室は、井草の匂いでリラックスできる空間なので、モダンな柄もいいですが、落ち着きのあるほっこりとしたデザインがぴったりだと思います。こちらのラグは、イトスギという木と真ん中のフレームには空のような青色が添えられています。自然の景色を窓から眺めているようなデザイン。インテリアに取り入れやすいと思います」

2.ウッド系の北欧インテリアには、“モダンでシンプル”なものを

ギャッベ 250×169cm 

「北欧インテリアがお好きな方は、ホワイトウッドを使った家具を取り入れている方が多いかもしれません。そうすると、ラグも木の色を邪魔しないような柄とやさしい色合いのものが合うと思います。こちらは、ギャッベなのですが、草木や動物などの柄もないシンプルでモダンなデザイン。それでいて、一列ずつ幅や柄の入れ方が若干違っていて、個性もあります。お部屋を可愛らしい雰囲気に演出してくれるラグだと思います」

3.白黒モダンテイストのお部屋には、“シック”な色味のラグを

トライバルラグ 193×146cm 

「白黒系で統一したモダンなお部屋の方は、一番お部屋へのこだわりがあるかもしれません。ですが、そこで同じ白や黒のラグではなく、あえてトーンは抑えめでブラウン系のシックなトライバルラグを選んでみてはいかがでしょうか。トライバルラグは赤のイメージを持たれる方も多いのですが、ネイビーやブラウンなどの抑え目な色も多いです。ネイビーも、白黒系インテリアに合うと思います。

こちらは、バルーチという部族のラグ。白色のステッチが入っていて、そこが白い家具にとっても合わせやすいと思います。さらに、よく見ると木の柄が隠れているのですが、そんな風に時間がたっても新しい発見があるのもトライバルラグの面白さですね。シックなかっこいいインテリアが好きという方は、このくらい落ち着いた色味のラグを選んでみてください」

作り手の温かい思いがこめられた
ハンドメイドラグの魅力

一枚一枚が職人の手で丁寧に作られているからこそ、深い味わいを感じるハンドメイドラグ。最後に改めて、「ハンドメイドラグの魅力」をお二人に聞いてみました。

「自分のお気に入りを見つけて、共に人生を歩んでいけるところがハンドメイドラグの面白さだと思います。ですので、自分に寄り添ってくれるパートナーを探すように、ラグも選んでほしいです。人生には紆余曲折ありますし、たまにはラグの上に何かをこぼしちゃった、傷つけてしまった、なんてこともあると思いますが、それも全部ラグに積み重なっていく思い出。インテリアアイテムのひとつではあるのですが、時間の経過とともに一緒に育ってくれる存在として楽しんでいただけたら嬉しいですね」(平井さん)

「手作りだからこそ温かみを感じるハンドメイドラグ。だからこそ、お部屋に敷いたときにも、お部屋全体を温かい雰囲気に演出してくれると思います。さらに、職人さんたちがなぜこのデザインにしたのか、なぜこの柄を織ったのか……そういうことを想像するのもすごく楽しいと思います。唯一無二の一枚をインテリアに取り入れて、作り手の思いに気持を馳せることができるのも、ハンドメイドラグならではですよね。ぜひ、自分だけの一枚を見つけてラグの魅力を感じてほしいです」(小松さん)

Shop Data

Layout(レイアウト)

所在地=東京都目黒区青葉台2-20-14 青和ビル1F
TEL=03-5773-5721
営業時間=11:00~19:30
水曜定休
https://shop.layout.casa/

取材・文=室井美優(Playce) 撮影=泉山美代子