「ホームハザード」とは、家庭内にある“危険”のこと。とくに高齢者や子ども、ペットにとって、自宅には思った以上に危険が多く、見守りや対策が必要な場合があります。
仕事で自宅を長時間留守にする、高齢の親と別々に暮らすなど、そばにいて見守ることができない状況のときこそ、IoT家電を使った自宅の“スマートホーム化”がおすすめ。家電の自動化や外出先からの遠隔操作を可能にし、さらには見守りたい対象の異変にスピーディに気づくこともできます。
「家電王」の異名を取る家電のスペシャリストで、動画マガジン『くらしのラボ』を主宰する中村剛さんに、対策のポイントや最新のスマートデバイスについて教えていただきました。
CONTENTS
子ども・高齢者・ペットに対して
家の中に潜む「ホームハザード」
ホームハザードとは具体的にどういったものがあるでしょうか? 家の中の危険は、対象者によって異なるといいます。
「まず、高齢者。これまでたいして不便なく生活していた家で、加齢による運動機能の低下とともに、登れていた階段の上り下りがきつくなる、脱衣所や廊下やトイレの寒さに体が対応できずヒートショックを起こすなど、家の中で危険を感じる場所が増えてしまいます。とくに古い日本家屋でよく見られる上がり框(かまち)。20cmほどの段差を越えられず、脚がひっかかり転倒の引き金になってしまうのです」(家電王・中村剛さん、以下同)
高齢者のホームハザード
・入浴中のヒートショックや、溺死・水中での窒息
・カーペットや扉の段差などによるつまずきや転倒
・手すりなど捕まる場所がない階段や玄関の上り框などによる躓きや転倒
・熱中症
など
「次に、子どもです。こども家庭庁の調査によると、子ども(0~14歳)の病気を含める死因の上位を占めるのが“不慮の事故”。その事故の大半が家庭内にあり、溺死・窒息死・転落死が主な原因です。ベッド内での窒息や、食べもの・風船などの異物の誤飲による窒息、浴槽での溺死、ベランダのエアコン室外機等の高さのあるものを使って登ったことによる転落事故などが発生しています。また、近年では盗撮された写真や、子どもの裸の写真を無邪気にアップしてしまったことで、掲示板サイト無断で転載され販売されるなど取り返しのつかない事態になってしまうなど、カメラとネットが身近な時代になってしまったからこそ起こる新たなホームハザードもあります」
子どものホームハザード
・階段や窓、ベランダからの滑落
・水が張ったままのバスタブや入浴中の溺死・溺水
・就寝時や異物の誤飲による窒息
・熱中症
・盗撮などで子どもの裸をインターネットに晒される
など
「そして、ペット。現在、日本の犬や猫の飼育数は15歳以下の子どもの数を上回り、ペットを飼うご家庭は増加傾向にあります。一方では共働きも増え、ペットを飼育しながら長時間見守ることは難しい状況です。まず増えているのが熱中症。猛暑日の増加に伴い、年々熱中症になる人が増加傾向にあるように、ペットの熱中症も増えています。また、滑りやすいフローリングはペットの背骨に負担をかけます。キャットウォークからの転落による骨折など、ペットならではのハザードも。ペットの目線にたって、心地よい環境を整える意識が必要です」
ペットのホームハザード
・キャットウォークからの転落
・フローリングの床が滑りやすさにより背骨の負担がかかり後ろ足が麻痺する
・ガスコンロのスイッチオンによる火災の発生
・電化製品への排尿後、スイッチが入ったことによる火災の発生
・熱中症
など
見守りのポイントとは?
タイミングと相手への配慮が大切
見守りはただ行動を制限するのではなく、見守られる側への配慮も大切だと中村さんは話します。私たちが見守られる側へ配慮しなければならないことは何なのでしょうか?
「20〜30代の女性は、親や子ども、ペットなど守らなくてはならない存在があると思います。しかし、見守りのタイミングが間違っていたり、相手の負担になっていたり、『もっと早く対処しておけばよかった』、『相手のプライバシーを侵害してしまい、ケンカになってしまった』などということは、よく起きることです」 例えば、これから見守りが必要になって行く親という存在、65歳以上の高齢者の注意ポイントを考えてみましょう。
要介護状態へ真っ逆さま…
けがや病気で起こる“フレイル”とは?
「『フレイル』という言葉をご存知でしょうか? フレイルとは、健康な状態と要介護状態の中間の段階を指します。筋肉量は20~30代をピークに徐々に減少し、65歳までに約25%が減少、80歳までにさらに15%が減少するといわれています。転倒や病気などで、日常生活を送れず動けなくなると、筋肉はさらに減り、病気や怪我が治ったとしても以前の生活を送れなくなることがあります。動けないと運動量が減る。筋肉が減ってさらに動けなくなる____この悪循環に陥り、要介護状態へまっしぐら。まず、この事故を防止しなくてはなりません」
将来を見越した環境づくりを
家庭でのバリアフリーを、もっと先の将来と考えていたとしても、実際にすでに必要な状態かもしれません。
「先ほど説明した脚が上げられなくなることで転倒のリスクがある上がり框。高い段差を補う踏み台や手すりをつける対策を早めに行いましょう。こうした対策を早い段階で行っていれば、無理なく自分で段差を上れ、体を動かすきっかけにもなる。しかし、この設置のタイミングが遅くなってしまえば、怪我や骨折につながり、フレイルから要介護状態へ移ってしまう危険性があるのです。まずはそういった事例を知り、家にもハザードがあることを想定しておくことが大切です。
長期的な目線でいえば、20〜40代で家を購入するときに、自分が高齢者になったときのことを考えて家を設計するのもよいでしょう。いつかは誰にでも起こりうることなのです」
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「見守られる側の心地よさ」と「データによる変化のキャッチ」を両立
「もう1つ配慮することといえば、プライバシー。例えば、健康を管理するスマートウォッチや、自宅の監視カメラ。見守る側は、様子がわかり安心できるものですが、本人にとっては手の周りに何かがあるのは気になる、四六時中様子を見られていると思うと落ち着かない。など、ストレスの原因になってしまうことがあります。
しかし、近年ではこの見守られる側に配慮し、プライバシーを守りながら『ゆるく見守る』デバイスが発達しています」
例えば、2024年9月の敬老の日にリリースされたWi-Fi 見守りシステム“Care Sense”。
「これはWi-Fiの波紋データをAIが解析することで、対象者の“動きの有無や動きの量、呼吸の有無や呼吸数、睡眠の有無や睡眠量、ノンレム睡眠やレム睡眠”を検知し、無事に過ごしているかどうかを確認できるシステムです。監視カメラとは違って、Wi-Fiの波紋を利用しているので見守られる側のプライバシーは守られます。
守られる側にとってはゆるく見守られているのに、裏ではしっかりとデータが蓄積され処理されることで、目視よりも敏感に異常をキャッチできます」
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自然に体重を測定。運動を促すなどアクティブに支援する「スマートバスマット」
世界初の照明一体型プロジェクター『popIn Aladdin』の開発者が、新たに立ち上げたissin株式会社が販売する『スマートバスマット』も、同じように使う側の立場に立った製品だそう。
「その名の通りバスマットと体重計が一体型になっており、バスマットに乗ることで体重を自動的に測定し、体重の変化の傾向をスマートフォンで確認できます。フレイル状態に至る前に予防や対策ができるようAIが状況に合わせて病院の受診を促したり、運動を促したりする機能がついています。
きっかけは開発者がお父様の病気に気づけず亡くなられてしまったことを悔やみ、『体重が急激に減少していたことに早く気づいていたらもっと早い段階で病院に連れていくことができたのでは?』と考えたことが始まりだったそうです。バスマットは毎日使うため、乗ることで毎日体重を測定できます。体重計のように、わざわざ出して乗る必要はありません。体重を見たくなくて乗る頻度が減ることもありません。普段の生活を邪魔しないのです」
このように生活に自然に溶け込みながら、見守られる側の負担を減らし、見守るスマートデバイスが増えているといいます。
スマート家電を活用して事故を防止!
高齢者・子ども・ペットそれぞれの快適な日常
実際に暮らしを改善するデバイスには、どんなものがあるのでしょうか?
「最近はたくさんのデバイスが販売されていますが、耳慣れない人たちにとっては実際どのように生活が変化するかは、想像しにくいものでもありますよね。まずは、スマートホーム化を進めた高齢者の1日から見てみましょう」
【高齢者】朝から夜までスマート家電を活用しリズムのある生活を
朝
・太陽が昇り、日が当たると自動的にカーテンが開く。
・カーテンが開くとともに、スマートスピーカーが天気を知らせる。
・予め決めた室温をトリガーにし、夏ならば28℃より高い、冬ならば20℃より低い場合は自動的にエアコンにスイッチが入り、快適な温度設定を実現する。
・常用のクスリの服用をスマートスピーカーがリマインドしてくれる。
昼
・好きな音楽をスマートスピーカーで聴く。
・荷物が届き、ベルが鳴る。Iot宅配ボックスを利用して、スマートフォンから応答。
・玄関の扉を開けることなく、荷物の受け取りが完了。
夜
・日が落ち暗くなってから歩こうとすると人感センサーがキャッチ。照明が自動で点灯する。
・入浴時、脱衣所、浴室の温度が自動で管理され、ヒートショックを防止する。
・入浴後、バスマットが自動で体重を測定、健康を管理する
・睡眠時の呼吸、睡眠の質、動きの量などを自動的に管理。異常を検知したときには、保護者のスマートフォンへ連絡が行く。
「1日のリズムをつけ、健康的に過ごすために、起床時に火の光を浴びることは欠かせません。一人暮らしならばカーテンを開けずに、そのまま過ごしてしまう方もいらっしゃることでしょう。しかし、スマート家電を活用すれば、希望の時間に自動でカーテンを開け、自然に起床を促せます。また、本日の天気を知れば、天気に合わせて洗濯物を前もって家の中に干す、折り畳み傘を持ち歩くなどの対策も可能です。
急な転倒を防止するには、まず慌てない状況を作ることが大切です。例えば、宅配。チャイムが鳴らされると、慌てて玄関に向かわれる方も多いことでしょう。慌てると、普段なら越えられる段差につまずくかもしれません。そんなときはIot宅配ボックスを使えば、スマートフォンやスマートスピーカーで、チャイムの応答ができます。自宅にいながら応答し、宅配業者がボックスへ荷物を届ける。自身のタイミングで宅配を受け取れます」
【子ども】目を離した隙に子どもが自分で「気づく」仕組みを
乳幼児の場合は、1人になるタイミングも少ないと思います。どのようなことに気を付ければよいでしょうか?
「小さなお子さんの場合は、1日の安全な流れを作るというよりも、的を絞った対策が大切です。
例えば、ちょっとした買い物、料理中など“目を離した隙”の対策です。常にスマ―トフォンやカメラ等で見張っていられるわけではありませんので、本人が危険に気づける仕組みが必要です。もちろん普段から、バスタブに水を溜めたままにしない、危険なものが入っている場所にロックするなどの物理的な対策は必要ですが、一方で浴室やキッチン、出窓やベランダなど、危険区域に入った場合に、アラームや声かけ等が発生して、入ってはいけなことに自分で気づける対策をするとよいでしょう」
「導入例としては、人感センサー。窓やベランダに近づくと、『窓は、ママがいるときに近づこうね』など、予め決まった言葉をかけて警告することもデバイスの連携でできます。
また、AIが実装されている360度全方向撮影可能なカメラで、動く対象者を自動的に追って撮影する方法もあります。莫大な録画データを保存するだけではなく、AIが動きを察知してハイライトでお知らせするので、異変が起きたときに気づくことができます」
【ペット】長時間、見守る目のないまま過ごすペットは熱中症に要注意
ペットのホームハザードを防ぐには、どんなホームデバイスがあるでしょうか?
「近年では、ペットによる熱中症も増加傾向にあります。また、急な温度変化も多く、春先なのに急に暑くなる、朝は涼しかったのに昼は暑いなど、気温の急激な変化も増えています。
エアコンをスマ―トフォンで操作できば、外出先からも自宅の室温を管理できます。もちろん室温が28℃を超えたら自動的にエアコンをつけるなど自動設定も可能です。
その他にも、体重やおしっこの量を自動的に計測し体調管理ができるペットトイレや、ペットがしっかりごはんを食べたか、食べている様子までスマートフォンで確認できるペット自動給餌器など、見守りながら健康も管理できるデバイスも多く開発されています」
はじめてのスマートホーム化は
どこから始める?
はじめてのスマートホーム化におすすめのアイテムは、エアコンだといいます。
「まずは、エアコンをスマート化しましょう。設定も簡単で、効果も実感しやすいアイテムです。発売時期の新しいエアコンは、すでにスマートフォンアプリと連動して簡単に管理できますし、古いエアコンでもスマートリモコンを中継すればスマ―トフォンでの管理が可能です。
エアコンのリモコンは、エアコンから出ている赤外線を利用し操作しています。この赤外線を設定する機能を持っているのがスマートリモコンです。スマートフォンでの操作をエアコンに伝えるので、外出先からもスマートフォンでエアコンを管理できます。スマートリモコンに温度センサー・湿度センサー・CO2センサーが搭載されている製品もあります」
「エアコンを皮切りに、いろいろなデバイスを少しずつ自宅の状況に合わせてDIYでまずは試すのもいいでしょう。しかし、『思ったように接続できなかった』『昨日は見られたのに今日は見られない』など、不具合が発生してしまう煩わしさも少なからずあります。現在では住む人の利便性に合わせて、住宅そのものにスマートロックやスマート給湯器、スマートインターフォンなどのデバイスが含まれた物件や、その賃貸物件も用意されています。興味があるけれど、自信がない。そんな方はこのような物件を試してみるのも一つです」
家庭での事故を防止し、自宅での生活の質も向上させるスマートホーム。実践してみれば、思った以上の快適さと便利さを実感されることも多いことでしょう。自宅にWi-Fi環境があるならば、まずはエアコンのスマートフォン化から始めてみていかがでしょうか。
Profile
家電王 / 中村 剛
2002年に『TVチャンピオン』のスーパー家電通選手権で優勝し、銀座にて体験型ショールーム「くらしのラボ」の開設と運営に携わる。現在は家電王として動画マガジン『くらしのラボ』をFacebookとYouTubeで毎週配信している他、テレビや雑誌、新聞などのさまざまなメディアで暮らしに役立つ家電情報を発信。
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取材・文=加賀美明子(Neem Tree)