万年筆ブームに沸く日本で、新作や限定モデルが登場するたびに話題になるなど人気を博しているのが、ドイツの筆記具メーカー「LAMY(ラミー)」。創業は1930年ですが、1966年から“装飾ではなく機能を重視したモダンデザイン様式”であるバウハウスの理念を取り入れ、以降50年以上経った現在まで変わることなく、美しいデザインのペンを数々生み出しています。
文房具の専門誌『趣味の文具箱』(枻出版)の編集長を務める清水茂樹さんに、ラミーが創り出した傑作の数々を紹介いただくとともに、美しさを感じるポイントや使い心地、ひいてはこの“デジタル時代における手書きの楽しみ”についてうかがいました。
ラミーの根底にあるのは「バウハウス」の精神
ドイツ・ハイデルベルクで誕生したラミーが、モダンデザイン様式であるバウハウスデザインを取り入れたのは1966年のこと。「LAMY 2000(ラミー 2000)」が登場した、今から50年以上前にさかのぼります。
「ラミー 2000は、『西暦2000年になっても古びない』というコンセプトで発表されたデザインの万年筆です。ここからラミーの新しい歴史は始まり、ラミー 2000はその名の通り、2000年を超えて20年経った今でも、変わらず愛され続けています。この美しさが50年以上も前に考えられていたことには、驚きを感じるばかりです。
シリーズによってデザイナーが変わったり、外部デザイナーが参加したりするのですが、著名な外部デザイナーであっても完全に委託してしまうのではなく、ラミーと外部デザイナーで共同開発しているそうです。ですから、すべての製品に間違いないラミーの理念を感じられ、筆記具の中でもラミーの人気は群を抜いていて、性別や年齢問わずに愛されています」(『趣味の文具箱』編集長・清水茂樹さん、以下同)
ラミーが愛される3つのポイントとは?
自身でもラミーの筆記具を数多く所有している清水さんに、ラミーの魅力を知る上で欠かせないポイントを、3つ挙げていただきました。
1. 考え尽くされた機能性
ラミーの製品は、すべてにおいて“装飾せず機能に徹している”そう。単にシンプルにしたりあるべきものをなくしたりするのではなく、取り出す・キャップを開ける・書く・キャップを閉める・しまう、という一連の流れがよりスムーズに行えるよう考え抜かれています。
「一番の魅力は、書くまでのアクセスがとても良いということ。まるで指先からインクが流れ出てくるかのように、書きたいと思ったら瞬時に書けるので、ひらめきを文字にするまでの時差がありません。雨の日や電車の中、いつでもさっと取り出して書くことができ、その身体との一体感がとても心地いいのです」
2. 4つの要素から突き詰められたデザイン
機能重視のデザインは、材料・色・形・テクスチャーの4つの視点から考え抜かれています。デコラティブなデザインはこれまでにひとつもなく、半世紀を過ぎてもその考えが守られ続けている、そのブランディングにも心を動かされます。
「万年筆のなかには、キャップ上部にロゴマークが入っていて、胸ポケットに挿してもそれが見えるようにデザインされているものも多いのですが、ラミーは、そのロゴさえも目立ちません。頑固なまでに機能重視で、あくまでも書くための目的に従って作られています。しかも、それでいてラミーらしい個性を感じられるところが、デザインの優れた点です。装飾をしないということは、言わばスッピンで勝負しているのと同じですよね。それでも、美しさと輝きを強く放っていることに魅力を感じます」
3. ラミーらしい個性
機能をより重視してデザインされているラミーのペン。ミサイルを思わせるなめらかなボディラインのものや、見た目にはさほどわからないのにグリップだけ素材が変えられているもの、それぞれのクリップのデザインにも、デザイナーの意志を感じます。
「雑誌にペンのシルエットだけを並べて掲載したことがあります。ラミーのシルエットは一番簡素なのですが、見てすぐに、どのモデルであるかわかりました。シンプルな中にもそれだけではない、ラミーならではの美しさと格好の良さがしっかり反映されています。触れてみると、重さや素材の感触など、細部にわたってこだわりを持って作られていることがよくわかりますよ」
“手書き”は暮らしを楽しむためのエッセンス
美しい文房具を手にしたい気持ちはあっても、デジタル機器が中心となりつつある現代の暮らしのなかで、どのように“手書き”を取り入れていくかに悩む人は多いのではないでしょうか? 続いて、手書きすることのメリットや楽しさを語っていただきました。
・アナログ感を楽しめる
ここ数年、デジタル機器の使用時間が伸びていく一方で、フィルムカメラやレコード、ラジカセといったアナログなものにも注目が集まっています。
「最近、レコードの売り上げがCDを抜いたという話題がありました。それだけCDが売れていないということでもありますが、レコードを愛している方の多さをあらためて知ったニュースでもありましたよね。我々の世代だとリバイバルになりますが、20-30代にはレコードやフィルムカメラが新しいものとして受け入れられています。手書きはアナログの最たるもの。紙やペンを扱うときの所作を楽しむことが、デジタルな道具に囲まれた日常に彩りを与えるかもしれません」
・保存に適している
仕事での議事録やメモはもちろん、プライベートの買い物リストやTODOリストなどをデジタルで管理している方も多いでしょう。それにはそれで便利さがありますが、手書きのよいところは、実は保存に適している点なのです。
「データが消えてしまったり、インターネット上のデータにアクセスできなかったりと、便利な一方でデジタルツールでの管理にはデメリットも伴います。手書きのものは、いったん書いてしまえばずっと保存しておける確実さと、アクセスの良さがあります。またラミーのような、取り出してすぐに書けるペンなら、いつでもどこでもさっと書いて見返すことができますから、“手書き=スローライフ”ではなく、日常をスムーズにするツールでもあるのです」
・豊かな表現ができる
効率の良さを追究する場面では、デジタル機器を使用することが多くなりますが、それだけでは「誰が書いたのかわからない文字ばかりが並ぶ日常になる」と、清水さんは話します。
「文字を書くことは、表現のひとつでもありますよね。その人なりの表情がある手書き文字からは、汲み取れるものが言葉以上にあります。人に伝えるときだけでなく、胸のうちにあることを書き殴ることは、精神的なバランスを取ったりストレスを解消したりすることにもつながります。
個人的には、PCのキーボードで入力している最中にも新しいメールがどんどん届く環境より、メモとペンを持って静かに考えた方が集中できるので、集中したいときこそ手書きを選択しています」
ラミーの魅力、そしてラミーなどペンを使って手書きする楽しさをたっぷり語っていただいたところで、次のページでは、清水さんが愛用する数々のラミーコレクションから、おすすめのモデルを紹介していただきます。