CULTURE 人・本・カルチャー

シェア

ひとりで紙に向き合う「おひとりさま会議用紙」も話題“書く瞑想”とも呼ばれるジャーナリング。
自己内省するための書き方とおすすめ文房具

TAG

新年度がスタートしてから早1か月。新しい環境のもとで緊張して過ごした人も多いかもしれません。


「自分の本音はどこにあるのだろう?」
「私が本当に望むことは?」
「自分の味方が誰もいない気がする」


気持ちを書き出すことでモヤモヤが整理され、本心に気づく効果があると言われる「ジャーナリング」。いつでも気軽に始められるマインドフルネスのひとつですが、環境が変わったときこそ始めたくなるタイミングかもしれません。「書くことは、生きること」を提唱し、自分自身と対話するツール「おひとりさま会議用紙」(Self0 [セルフレイ])を開発した山口恵理香さんに、自分と対話する方法と、その効能をうかがいました。

自己内省は地に足をつけて生活するために必要不可欠な時間

自分の感情を言葉にすると、心が整理されてモヤモヤが落ち着き、本来の自分を取り戻すことができると言われています。なかでも感じたことや思ったことをどんどん紙に書き出していく「ジャーナリング」は、手軽にできる「書く瞑想(マインドフルネス)」としてさまざまな人がその方法を提唱してきました。日記帳やノートに思いのたけを書き尽くすことで不思議と気分がすっきりして活路が拓けたり、自分の本音に気づいたりした経験がある人もいるのではないでしょうか。こうした自己内省の時間を山口さんは「ひとり会議」と呼び、14歳の頃からその効果を実感してきたと言います。

「私は、自己内省やジャーナリングの時間は地に足をつけて生活するうえで不可欠だと考えています。私たちは日々さまざまな出来事を体験し、たくさんの人の感情を受け取りながら生活しています。だからこそ、一度こうと決めたことでも『本当にこれでいいのかな』と揺らぐこともありますよね。そんなとき『ひとり会議』を行えば、自分が今、何を感じてどんな風にしたいのかがわかり、自分の心の現在地を確かめることができます。

『ひとり会議』のきっかけは、14歳で経験した不登校でした。学校は苦手だけど勉強はしたくてフリースクールに通いたかったんです。そのときに、反対する父に向けて自分の気持ちを書き綴りました。

はじめは父に宛てた手紙の延長線のような感じです。ところが、相手に思いを伝えたいと思って書いていくうちにどんどん自分の気持ちがあふれ出てきて、結局ノートまるまる1冊分くらいになりました。直接は言いづらい気持ちもノートには書くことができ、結果的に父は賛成してくれました。自分で自分の気持ちをちゃんと確認して、 それを言葉で誰かに伝えることで、人生だったり運命というものが動かせるんだなと感じた最初の成功体験だったと思います。

以来、自分の気持ちや考え、アイデアなど自分の中にあるものをノートに書き出していく『ひとり会議』をやり続けています。14歳当時、適応障害を患い、今もこの病気と付き合いながらの日々ですが、社会生活を送るうえでメンタルを保つことができているのは『ひとり会議』のお陰です」(山口恵理香さん。以下同)

紙と筆記具さえあればできる! 書くことで自分の内面を見つめる方法

ジャーナリングは紙に自由に気持ちを書き出していくだけなので、特に決まったルールはありません。今回は山口さんに、ご自身の方法やこだわりなどを教えていただきました。

無地のノートにフリーハンドで

山口さんがふだん使用しているノートと筆記具

「おひとりさま会議用紙」を開発した山口さんですが、ご自身で「ひとり会議」を行うときは、無地のノートに手書きするそう。お気に入りはマルマンの「ニーモシネ」の特殊無地・A4サイズ。一度使ったら、紙の書き心地や大きさなどがすっかり気に入ってしまい、もはや手放せない存在になっているのだそうです。

「その日に言われた言葉や言われたときの気持ち、起きた出来事や新しい商品のアイデアなど何でも書きます。思ったことをそのまま、ノートに向かった瞬間に出てくる言葉を直感的にフリーハンドで書く感じです。無限大に気持ちやアイデアを書きたいので、ノートは横にして使います。ペンは何種類も持ち歩き、大事なことを大きく書いたり、結論だと思う言葉は好きな色で書いたりします。今、文房具のトレンドはスモールサイズですが、私はノートも大きめ、ボールペンも1.0の太めで大きくのびのびと書くのが好きです」

メインで文字を書くボールペンのお気に入りは、三菱鉛筆の「ジェットストリーム スタンダード」の1.0mm。インクの色は黒、赤、青とそろえておき、気分によってペンの色を変えます。そのため、ページをパッと見ただけで、書いたときの心理状況がだいたいわかってしまうとか。そのほか、万年筆や蛍光ペン、色ペン、紙用マッキーがペンケースの常連。

「ジャーナリングを人におすすめするときは、手書きでもデジタルでもどちらでもいいですよとお伝えしますが、私自身は手書きです。書いていると気分が落ち着きますし、あえて時間をかけて丁寧に自分と向き合うことで導き出されてくる事柄が大切かなと思っていて。

アイデアに関しては一度書き出せば体に入ってしまうので、読み返すことはほとんどありません。ただ、気持ちが落ち込んだときに書いた事柄は対処法となっていることも多いため、同じ状況になったとき、処方箋のように見返すこともあります」

こだわるのは時間帯よりも場所

「『ひとり会議』を行う時間帯に特にこだわりはないものの、どこでノートを広げるかは私にとっては重要です。実家の机は思いつきやすいけど、ふだん仕事をする机は『ひとり会議』には向いていないなとか、よく行くカフェのこの向きのこの席がいいなとか。もちろんいつもその席に座れるわけではないのですが(笑)。机、椅子、空気の流れは大切にしている要素です」

自分だけが味わうものとしての自己内省ノート

「字が汚いから手書きするのは気後れする…という声もよく聞きます。じつは私は字がきれいではありません。でも『ひとり会議』は誰かに見せる前提ではありませんから、字をきれいに書けるかどうかは気にしていませんし、割り切っています。もちろんこれも人それぞれの感覚でしょう。自分の字が好きではないから、手書きよりもデジタルのほうが素直に言葉が出せるという場合は、それでもいいと思います」

「続けよう」と思わなくていい。自己内省をするときのコツとポイント

自分を見つめ直すのに最適な「ひとり会議」ですが、注意点やコツはあるのでしょうか。

自己内省は自己否定ではない。自分に×をつけないで

「まずは『自分に向き合う』と決めて取り組むこと、そして自己内省が自己否定の時間にならないよう、バランスをとることが大事です。

自己内省では自分のいいところもダメなところも見ていくので、ダメなほうに重心がかかってしまうと、どんどん自分に×がついてしまって、一歩間違えると『ひとり会議』が反省会になってしまいます。

そうならないために、フォーマットを活用するのもいいかもしれません。私の開発した『おひとりさま会議用紙』に限らず、自分と向き合うための道具はいろいろ売っているので、そういったツールを試してみて、フラットな気持ちで自分と向き合える方法を根気強く探していくのが、自己内省を習慣化する第一歩ではないでしょうか」

あくまでもマイペースを大切に

「落ち込んでいるときに、自分のダメなところを書き切って浮上することもあれば、ますます苦しくなってしまうこともあるものです。そんなときは休み休みで大丈夫です。私も家だと集中しすぎてしまうので、カフェで『ひとり会議』を行うほうが好きです。心がザワザワしたときに、飲みものでひと息つくこともできますし、ちょっと他のテーブルのお客さんを見て気を紛らわしたりもできるので。

毎日やらなければ!と気負う必要もありません。長い目で見たときに続けるコツは、自分のペースでやりたいときにやることではないでしょうか。日記だから毎日続けなくてはならないといった一般的な常識にはとらわれず、自分のペースで進むことを大切にしてほしいと思っています」

人生はラボ。研究を重ねて自分らしい内省を

内省の助けとなる山口さんの著書『書くだけで、心がととのう ひとり会議ワークブック』。中で扱っている問いかけはすべて、自身の「ひとり会議」から出てきたもの。

「私はずっとノートにフリーハンドで『ひとり会議』をしてきましたが、叶えたい夢を書く夢専用のノートや、その日にあったいいことを書きためていく『しあわせ日記』など、そのときどきでいろいろな記録をつけています。

自分を記録する方法はさまざまですよね。推し活ノートや趣味のスクラップ、家計簿なども記録のひとつ。ジャーナリングからは少しそれてしまいますが、まずは自分が使いたいと感じた文房具を手にとって、実際に『書く』というアクションを起こしていくのはいかがでしょうか。『書く』が気づきにつながっていきます。

誰にとっても自分の人生は研究なので、実験作業を重ねることで自分に合った記録の仕方や文房具が見つかり、内省につながっていくのだと思います」

「おひとりさま会議用紙」という”お守り”を作りたかった

「私が救われてきた『ひとり会議』を、もっと多くの人が取り組みやすいようにしたいという思いで開発した『おひとりさま会議用紙』ですが、その根底には”ひとりじゃないよ”というメッセージがあるんです。

人生でつらいことをゼロにしたまま生きることはできません。つらいときには支えてくれる何かが必要です。私の場合、14歳で不登校を体験したときは両親がそばにいてくれました。でも6年前に父を亡くしたときは、支えてくれるものを外側に求めることができず、死別うつの状態を2年ほど抱えることになりました。孤独の中で『ひとり会議』を続け、自分で自分を支える『自立』の覚悟ができて救われました。

落ち込んだりつらい環境に置かれたりして”私はひとりだ”と感じるとき、そこに例え誰もいなくても、文房具や本だったら一緒に過ごすことができます。私の作ったアイテムを使って自分と対話しながら”ひとりじゃない”と感じてほしいのです。そのうちにきっと自分の人生を俯瞰できる瞬間、救われたと感じられるような瞬間が来るので、そこまであきらめずにがんばって走り続けてほしい。そんな、手に取った方の人生を伴走するお守りのようなものを作りたくて、日々商品を開発しています。私にとっても、『ひとり会議』で使うノートやペンは相棒であり親友であり、まさに生きることそのものを応援してくれる存在です」(山口恵理香さん)

自分で自分を支えるために。今日から文房具という”相棒”とともにジャーナリングを始めてみてはいかがでしょうか。

編集部が厳選セレクト! ジャーナリングにおすすめのアイテム5選

おひとりさま会議用紙セット(Self0[セルフレイ])

山口恵理香さんが開発した「おひとりさま会議用紙」は自分と向き合い、自分らしさを取り戻すための文房具として幅広い年代に支持されている。2026年5月現在、第5弾まで発売中。1セット13種各2枚入り。¥1,540(税込)
https://selfmeeting.base.shop/

晴れの毎日をつくるノート(SUNNY)

書き心地にこだわった紙を使用し、インデックスページやしおりなど見返しやすい工夫が施されたノート。思うままにたっぷり書き込んでも、振り返りたい場所がパッとわかるから頭がクリアに。持ち運びに便利なA5ミニサイズ。¥3,300(税込)
https://hello-iroha.com/sunny/products_notebook_main.php

しあわせ日記(midori)

よかったことを書きためる「しあわせ日記」。1日を振り返りながら書いた後、今日の良かったことを思い出して最後にひとこと書ける作りに。日付は自由書き込み式。シンプルながら根強い人気の日記帳。¥880(税込)
https://www.midori-store.net/SHOP/12872006.html?srsltid=AfmBOory7JwP_zeuji8wvHSTp1xAxdV9mlM9AE76fh2Wfo7qidUNMfTb

ジウリス バインダー <A5>(マルマン)

「おとな」のシーンで手帳感覚で使えるA5サイズのバインダー。適度な華やかさと品のあるデザインが特徴。シーンや好みに合わせて中身を自由にカスタマイズすることができる。ルーズリーフ別売り。カラーは、ライトピンク、ブルー、ベージュ、ディープブラウンの4種類(※2026年5月現在 )。¥4,400(税込)
https://www.e-maruman.co.jp/products/detail/f290.html

Profile

起業家・文筆家 株式会社atelier ERICA代表取締役 / 山口恵理香

1990年、東京都生まれ。不登校や父との死別を「書くこと」で乗り越えた経験から、ひとりで紙に向き合う「ひとり会議」の大切さを実感する。2020年には「書くことは、生きること」をコンセプトとした小さな文房具店「Self0(セルフレイ)」を開業。オリジナルで開発した「おひとりさま会議用紙」が瞬く間にヒット商品に。著書に『不登校だった私が売れっ子Webライターになれた仕事術』(自由国民社)、『あなたらしく生きるための「ひとり会議」ノート』(徳間書店)。『書くだけで、心がととのう ひとり会議ワークブック』(ディスカバー・トゥエンティワン)は8刷3万部を突破中。

撮影=真名子  取材・文=森下真理