CULTURE 本・映画・音楽

シェア

最後は笑顔で!「令和」時代が始まる前に、
“平成ヒット”から振り返る「平成」時代

TAG

2019年4月30日、「平成」という元号は幕を下ろし、新しい時代が始まります。

昨年9月に歌手の安室奈美恵さんが25年間の歌手活動に終止符を打ち、今年3月21日にはイチローさんが45歳でプロ野球を引退という、平成を代表する著名人が一線を退くニュースからも、ひとつの時代の終わりを感じます。新元号「令和」に向かうカウントダウンが始まっている今、あらためて「平成」という時代を振り返ります。

ナビゲーターは、平成を消費の視点から振り返った『平成トレンド史』(角川新書)の作者で、サイバーエージェント次世代生活研究所所長の原田曜平さん。1977年生まれの原田さんは、故・小渕恵三官房長官が「平成」と書かれた額縁を掲げたテレビ中継を、小学6年生の頃にリアルタイムで視聴しています。平成の前半に多感な時期を過ごしてきたご自身の経験と、後半は国内外の若者研究やマーケティングに携わる視点から、平成のトレンドに表れる時代の流れを教えていただきました。

 

平成は景気の傾向から3期に分けられる

平成を振り返るとき、大きく3つの時期に分けられると原田さんは言います。それは、バブルの残り香があった前期、不況ピークの中期、少し消費が上向いてきた後期。

前期:平成元年〜4年(1989年〜1992年)
中期:平成5年〜18年(1993年〜2006年)
後期:平成19年〜31年(2007年〜2019年)

「前期は平成4年くらいまでの時期で、昭和の名残とバブル景気で日本中にエネルギーが溢れていました。宮沢りえさんのヌード写真集が155万部売れたり、『24時間戦えますか』というキャッチコピーの栄養ドリンクが売れたりと、消費も労働も勢いのあった時期といえます。そしてバブルが崩壊し、一気にデフレの進む中期に突入します。この時期は大人の消費が急激に冷え込み、消費の中心として台頭してきたのが女子高生を中心とした若者世代です。アムラーブームが起き、女子高校生向けのサービスや商品が市場を賑わせました。そして、後期になると、SNSやインターネットの普及時代に。テレビや新聞といったマスメディアの影響力が薄れてきました。また、団塊世代の大量退職により、若者の就職率が上がりました。アベノミクス効果もあり、少しずつ景気が上向きになってきているのを感じます」(マーケティングアナリスト・原田曜平さん)

 

ではここからは、前期・中期・後期の主なニュースやカルチャー、流行語を年表にまとめながら、原田さんに振り返っていただきましょう。

 

【前期:平成元年〜4年(1989年〜1992年)】

バブル景気の享楽と不自由
エネルギー溢れるモノが売れた前期

写真は、1992年のジュリアナ東京の“お立ち台”を写す。
写真は、1992年のジュリアナ東京の“お立ち台”を写す。

主なニュース

平成元年4月 消費税導入(税率3%)
平成元年6月 昭和の歌姫・美空ひばりさん死去
平成元年11月 ベルリンの壁崩壊、東西ドイツ統一
平成元年9月 ソニーが米コロンビア映画買収
平成元年10月 三菱地所がロックフェラーセンター買収
平成2年 日本人の海外旅行者が1,000万人を突破
平成3年1月 湾岸戦争が勃発

 

主なヒットカルチャー

<施設>
カラオケボックス(平成元年)
横浜アリーナ(平成元年)
横浜ベイブリッジ(平成元年)
幕張メッセ(平成元年)
ディスコ「ジュリアナ東京」(平成3年)

<テレビ番組>
『世にも奇妙な物語』(平成2年)
『東京ラブストーリー』(平成3年)
『101回目のプロポーズ』(平成3年)

<テレビCM>
リゲイン「24時間戦えますか」(平成元年)
鉄骨飲料「いずれ血となる骨となる」(平成2年)

<流行・話題語>
「デューダする」(転職する)(平成元年)
「三高」(高身長、高学歴、高収入)
「アッシー」(呼び出せばいつでも車で送迎してくれる男)
「メッシー」(いつでも食事をおごってくれる男)
「フリーター」(平成3年)
「3K」(キツい、汚い、危険)

<本>
宮沢りえヌード写真集『Santa Fe』(朝日出版社)(平成3年)

 

「働けば働くほど、給料がもらえるという感覚のあった時代。今ではブラック企業と言われてしまうほどの深夜残業や休日出勤が、当時は当然のようにありました。この時期の女性は、25歳前に結婚をし、結婚後は仕事を辞めて専業主婦になるのが主流。25歳を過ぎて未婚の女性は『クリスマスケーキ』などと揶揄され、職場でもお局様と言われてしまうほど。仕事よりも恋愛に生きがいを求める傾向にあり、月曜9時放送のトレンディドラマ『月9』を中心に、恋愛モノが高視聴率を出していました。『東京ラブストーリー』で鈴木保奈美演じるリカが織田裕二演じる完治(カンチ)に、路上で『セックスしよ!』と語りかけるセリフや、『101回目のプロポーズ』で武田鉄矢の演じる達郎が、浅野温子の演じる薫の前でダンプカーの前に突然飛び出し『僕は死にましぇん』と涙ながらに訴えてプロポーズをするシーンが大きな反響を呼びました。

今の若者には、あのような恋愛ドラマはあまり響かないでしょうね。むしろ、『なんで路上でそんなことを叫ぶ必要があるんだよ』とか『危ないし、トラックの運転手に迷惑だよ』という発想になりそうです。景気は平成2年(1990年)から下落の一途を辿りますが、インターネットが普及していないこの時代は、バブル崩壊の現実が一般に浸透するまでに時間がかかりました。平成3年にジュリアナ東京がオープンしている状況を見ても、バブルの熱狂や余韻が残っていたのがわかります」(原田さん)

 

【中期:平成5年〜18年(1993年〜2006年)】

暗い不況に苦しむデフレ時代
中期を支えたのは女子高生ブーム

2017年、翌年に引退を控えた安室奈美恵さんが1992年当時をイメージしたヘアメイク・衣装で渋谷109の壁面広告に登場した。
2017年、翌年に引退を控えた安室奈美恵さんが1992年当時をイメージしたヘアメイク・衣装で渋谷109の壁面広告に登場した。

主なニュース

平成5年5月 Jリーグのリーグ戦開幕
平成5年6月 宮沢内閣不信任決議案が可決、衆議院解散
平成5年7月 第40回総選挙。「55年体制」の崩壊
平成6年6月 松本サリン事件
平成7年1月 阪神・淡路大震災
平成7年3月 地下鉄サリン事件
平成9年4月 消費税5%に引き上げ
平成9年9月 Google創業
平成10年2月 長野冬季五輪開幕
平成11年4月 東京都知事に石原慎太郎氏が当選
平成13年4月 第2次小泉純一郎内閣成立
平成13年9月 米国で同時多発テロ
平成15年3月 イラク戦争開始
平成15年3月 宮崎駿監督『千と千尋の神隠し』がアカデミー賞受賞

 

主なヒットカルチャー

<施設>
ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(平成13年)
東京ディズニーシー(平成13年)

<テレビ番組>
『高校教師』(平成5年)
『家なき子』(平成6年)
『人間・失格〜たとえばぼくが死んだら』(平成6年)
『未来日記』(平成10年)
『あいのり』(平成11年)
『ロングバケーション』(平成8年)
『ラブジェネレーション』(平成9年)
『Beautiful Life〜ふたりでいた日々』(平成12年)

<流行・話題語>
就職氷河期(平成5年)
「同情するならカネをくれ」(平成6年)
アムラー(平成7年)
コギャル(平成7年)
チョベリグ、チョベリバ(平成7年)
ギャル男(平成9年)

<文化・ブーム>
渋谷文化:SHIBUYA109 、WAVE、タワーレコード、HMV(平成8年)
女子高校生文化:バーバリーのブルーレーベル、厚底靴、ガングロ、キティちゃん、着メロ、パラパラ、プリクラ(平成8年)
第一次韓流ブーム:『冬のソナタ』(平成14年)、『官邸女官チャングムの誓い』(平成15年)

<デフレ商品>
格安プライベートブランド商品(平成5年)
円高還元セール(コーラ、ビール、ワインの激安品)(平成5年)
消費税還元セール(平成9年)

<IT関連>
ポケベル(平成元年)
携帯電話(平成6年)
PHS (平成7年)
Windows95(平成7年)
iMac(平成10年)

<音楽>
小室哲哉プロデュース(平成7年)
宇多田ヒカル「Automatic」(平成11年)

 

「サラリーマンの平均年収下がり始めた時代。世の中が全体的に疲弊して消費意欲を失っていく中で、サリン事件や震災など、暗いニュースが続きます。近親相姦を描いた『高校教師』、イジメや家庭内暴力を描いた『家なき子』、『人間・失格〜たとえばぼくが死んだら』など、野島伸司脚本ドラマがヒットしたのも、この時代を反映しているようです。昭和の勢いを失い、新しい時代への切り替えもできずにもがいていたと言えるでしょう。

出口の見えない不況が続く中、救いになったのが、1971年〜1974年生まれのいわゆる“団塊ジュニア”世代近辺の若者たちです。中でも女子高校生が元気で、高校生向けファッション雑誌ではカリスマ高校生に人気が集まり、トレンドを牽引していきます。渋谷のセンター街には、安室奈美恵をマネしたアムラーや、キムタク風のロン毛の若者で賑わい、小室哲哉プロデュースのアーティストが次々とヒットを飛ばしミリオンセラーを連発。CDがもっとも多く売れた時代です。当時はテレビなどマスメディア情報の影響力が大きかったこともあり、日本中の中高生が渋谷文化に憧れる傾向にありました。女性の間では『冬のソナタ』をはじめとする韓流ドラマがブームに。韓国の著名俳優が頻繁に来日するようになります。デフレ経済の中、低価格商品への注目が高まり、100円ショップやユニクロが脚光を浴び、大手牛丼チェーン3社が『200円台牛丼』を出して売り上げを伸ばしました。

平成14年にアメリカの景気が回復してくるにつれ、日本の景気も徐々に上向きになっていきます。しかし、格差社会が浮き彫りになってきたのもこの時期。景気回復の恩恵にはバラツキがあり、『実感なき景気回復』という言葉がメディアでよく使われていました」(原田さん)

 

【後期:平成19年〜31年(2007年〜2019年)】

マスから口コミへ
SNSで選択肢の増えた後期

主なニュース

平成20年9月 リーマンショックの影響で日経平均株価が大幅下落
平成21年1月 米大統領にオバマ氏が就任
平成21年9月 鳩山由紀夫内閣成立
平成23年3月 東日本大震災 M9.0、福島第一原発一号機が爆発
平成23年5月 米軍、ウサマ・ビン・ラディンを殺害
平成24年5月 東京スカイツリータウン開業
平成24年12月 第2次安倍晋三内閣成立
平成26年11月 沖縄県知事選で辺野古移設反対の翁長雄志氏が当選
平成28年8月 イチローが米大リーグ史上30人目の3000本安打達成
平成28年8月 天皇陛下、生前退位のご意向を表明
平成28年11月 米大統領にドナルド・トランプ氏が就任
平成30年6月 改正民法成立、18歳成人に
平成30年9月 歌手・安室奈美恵引退
平成31年3月 プロ野球選手・イチロー引退

 

主なヒットカルチャー

<テレビ番組>
『半沢直樹』(平成25年)
『あまちゃん』(平成25年)
『妖怪ウォッチ』(平成26年)

<流行・話題語>
ユーチューバー(平成20年)
格差社会(平成26年)
炎上(平成26年)
リア充疲れ(平成28年)

<文化・ブーム>
第二次韓流ブーム(平成24年)
・K-POP…東方神起、BIGBANG、スーパージュニア、KARA、少女時代などK-POP
・コスメ…BBクリーム、美白シートなどのコスメ、“オルチャンメイク”
・家電…サムスン、LG

<IT関連>
mixi(平成18年)
iPhone 3G(平成20年)
Facebook(平成23年)
LINE(平成24年)
格安スマホ(平成26年)
インスタグラム(平成28年)

<映画>
『崖の上のポニョ』(平成20年)
『アナと雪の女王』(平成26年)
『君の名は。』(平成28年)
『シン・ゴジラ』(平成28年)

<音楽>
「千の風になって」(平成19年)

 

「中期の後半からパソコンと携帯電話の普及が急激に進み、安価で高速にインターネット接続ができるようになっていきます。ウェブ上で日記を公開する『mixi』が日本に上陸し、興味のあるトピックでコミュニティをつくり、招待した仲間の中で話題を共有する楽しさが広がると、次第にSNSが浸透していきます。東日本大震災直後からは、ツイッターの利用者が激増。個人の情報発信力が増していくにつれて、口コミの力が強くなっていきます。この時期のヒット商品には、コンビニやスーパーのプライベート商品や、990円ジーンズ、メガマックなどの安くて量の多いファーストフードがあります。デフレ商品が完全に定着した時代の中で、安くてもそこそこ満足度の高い商品が出てきているのも、この口コミによる情報拡散の影響があるのかもしれません。さらに、YouTubeの普及でネット動画の閲覧ができるようになり、NetlfixやHuluなどで好きな時間に、好きな映画やドラマが見られるため、テレビ離れが進んできました。

子どもがいても働き続ける女性が全体の7割を超えるようになり、女性が労働参加ではなく、一生仕事をするという時代になってきたのも後期からです。女性が自分でお金を稼げる時代になり、平成はどんどん女性消費の時代になっていきました。専業主婦の家庭でも、家計の財布の紐を握る女性が消費の主導権を握るようになったことも背景にあります。そしてダブルインカムが当たり前になり、未婚や離婚率が上がっている今、男性がお金を使う権利を得ることにより、少しずつ男性消費の時代への移行が進んできているようです」(原田さん)

 

昭和と平成、どっちが幸せ?
自由と不自由の間で揺れる女性

男性社会であった昭和を経て、徐々に女性の社会進出が進み、女性が社会で活躍できるようになってきた平成。このふたつの時代を比較すると、女性の生き方がずいぶんと多様化しているのがわかります。

「25歳までに結婚をして家庭に入るのがあたりまえだった昭和の女性には、社会で働き続けるという選択肢が奪われた不自由さがある一方で、子育てに専念することへの迷いがなかったと言えます。働きながら子育てのできる時代になった今の女性は、働き続ける権利を得た一方で、結婚をするのかしないのか、結婚する場合は働き続けるのか家庭に入るのか、子どもができてからは働き方を変えるのかなど、多様な選択肢に振り回される不自由さもあるのではないでしょうか。今、若い独身女性の間では専業主婦への憧れが高くなりつつあるといいます。体調が悪くても出社しなくてはいけない、子育てをしながら正社員として働く過酷さなどを知れば、専業主婦になりたいと感じるのも当然の意見だと思いますね。ノマドワークという働き方も浸透してきている今、個々の価値観に沿った幸せな道を選び取る力が求められているように感じます」(原田さん)

20190401_heisei_006

次の世代へとバトンタッチするという選択肢

戦後の復興から豊かさを手に入れるまで、モーレツに突き進んできた昭和という時代は、日本の象徴であった昭和天皇の崩御により、幕を閉じました。そして平成が幕を開け、ワークライフバランス、女性の社会進出、働き方の多様性を模索しながら、不況の中を必死にもがいてきた当代は、ある意味、右肩上がりで成長をする昭和からの脱却をしようとした時代です。

平成天皇が85歳という年齢で職務を辞することは、現代らしい選択だと原田さんは言います。「命が尽きるまで公務を全うするのではなく、高齢になり役目を果たしたタイミングで次の世代へとバトンタッチするという選択は、平成という今の時代らしい流れではないでしょうか。昭和から平成に変わったときと比べ、今回の新元号への移行には、それほど混乱はないと思います。『Hey!Say!JUMP』は改名するのか? など、“平成”というネーミングの対処法は少し気になりますが(笑)。マスの時代ではなくなってきているので、記念硬貨に群がる現象も深刻化することはないでしょう。ただ、SNSで話題になるコトやモノのヒットは見込めるので、限定商品やかけこみ消費は、最後まで盛り上がりそうです。羽田空港で買える『ありがとう平成まんじゅう』はかなり売れているみたいですね!」

 

バブルが崩壊し深刻化するデフレ経済の下で、震災にも見舞われた苦しい時代を駆け抜けてきた私たち。いよいよ5月から始まる新しい時代には、どのような未来が広がっていくのでしょうか。マスの情報に振り回されず、世界から瞬時に情報を得られる今こそ、閉鎖的な島国思考から脱却し、世界の動向をフラットな視点で捉えた個々の価値観や成長が期待されます。

 

Profile

サイバーエージェント次世代生活研究所 所長 / 原田曜平

1977年東京生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、博報堂へ入社。各部門を経た後、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーとして世界中で若者研究及び若者向けのマーケティングや商品開発を行う。2018年12月より現職に就任。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。「さとり世代」「マイルドヤンキー」「伊達マスク」の名づけ親。主な著書に『さとり世代 盗んだバイクで走り出さない若者たち』(角川oneテーマ21)、『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎新書)、『平成トレンド史 これから日本人は何を買うのか?』(角川新書)、『若者わからん「ミレニアル世代」はこう動かせ』(ワニブックスPLUS新書)などがある。
https://ameblo.jp/yohei-harada-official/

 

取材・文=今井美由紀(Neem Tree)