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台湾式と日本式が融合した異空間新しい日本橋に現れた
「誠品生活」の楽しみ方

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2019年秋、日本橋に新たな商業施設「COREDO(コレド)室町テラス」がオープンしました。3フロアからなるこの施設の最大の目玉は、なんといっても台湾発の「誠品生活日本橋」。本国・台湾の「誠品生活」は“アジアで最もすぐれた書店”と、その店作りが世界中で評価されています。誠品生活日本橋は、“日本1号店”であるだけでなく、“中国語圏外では海外初出店”となる重要な位置付けの店。そんな同店を運営するのが、神奈川・東京・千葉で約40店舗の書店を展開する「有隣堂」です。

誠品生活日本橋のプロジェクトリーダーを務める有隣堂の副社長・松信健太郎さんに、誠品生活日本橋で目指すこと、また同店ならではの楽しみ方を聞きました。

 

「本だけじゃない本屋」という新しい発想

台湾で1989年に創業された誠品生活は、台湾、香港、蘇州で49店舗を展開しており、日本橋の店舗が50店舗目に当たります。台湾を訪れたことがある人なら、松山文創園区の「誠品生活 松菸店」に足を運んだことがある人もいるはず。誠品生活は本だけでなく、生活にまつわるあらゆる店舗も入った大型のカルチャー体験型店舗で、ホテルも展開しているほど。今回オープンした誠品生活日本橋も本だけでなく、さまざまな“モノ・コト消費”に特化した店舗となっています。

筆者も松山文創園区の「誠品生活」を訪れたことがあり、あまりの規模の大きさに驚いた。なかには書店だけでなく、台湾ならではの雑貨店など半日では回りきれないほど多くの店舗が入っている。

このように台湾フリークの間では名の通った誠品生活ですが、日本での認知度はまだまだだとも感じているそう。実際に、松信さんがオープン間もない頃に店内を回っていると、来客者のなかには「どうしてここは本ばっかりなの?」と話している人もいたのだとか。

そんな誠品生活日本橋は「誠品書店(書籍・雑誌)」「文具・雑貨」「ワークショップ」「レストラン・食物販」といった4つのゾーンで構成。総面積は877坪あり、そこに13の店舗が入っています。

「誠品生活日本橋は、有隣堂がライセンシーとして誠品書店のブランドノウハウを受け、運営しています。有隣堂としてもこういった試みは初めてのこと。とはいえ、これまでの誠品書店はその土地に合った店作りをしてきているので、その点は有隣堂とも同じでした」(松信さん)

店全体はロの字型になっており、台湾の著名な建築家でアメリカ建築家協会の名誉会員である姚仁喜氏が空間設計を担当。シンプルでモダンな内装は台湾らしく、それでいて各店舗にかけられた暖簾が伝統の街、日本橋らしさを演出しています。

有隣堂 常務取締役 店売事業本部長 松信健太郎さん。2007年有隣堂入社。2009年店売事業部長、2012年店売事業本部長、2015年専務、2019年9月より現職。
有隣堂 副社長 / 松信健太郎さん。2007年有隣堂入社。2009年店売事業部長、2012年店売事業本部長、2015年専務、2019年9月より現職。

“誠品書店イズム”を継承したフロア作りに注目

書店フロアで注目したいのが、30mの長さの本棚が設置された「文学の廊下」です。この棚には文芸作品がずらりと並べられており、松信さんも品揃えの良さには自信を持っているそう。ですが、本棚を眺めていて「あれ?」と感じるかもしれません。出版社や作家名などを書いた棚刺しプレートがないのです。実は、これは誠品書店のポリシーのひとつで本国でも使用されていないのですが、見通しがよく本棚がすっきりとして見えますね。

書店コーナーの目玉ともいえる、通称「文学の廊下」。30mの大きな本棚には文芸作品だけが並ぶ。
書店コーナーの目玉ともいえる、通称「文学の廊下」。30mの大きな本棚には文芸作品だけが並ぶ。

もうひとつの目玉といえるのが、同フロアを訪れて最初に目に入る場所に設置された「誠品選書」のコーナーです。台湾の誠品書店のスタッフが選んだおすすめの本が並んでおり、毎月置かれる本が変わるそうです。

「実際に私が見ていても、そうきたか! と思う本が多いですね。通常、日本の書店では一番目立つ場所に新刊を置くのがセオリーですが、このコーナーはそうではないんです」(松信さん)

また、同コーナー前には畳敷きのベンチを置いており、ここでゆっくり座って読んでほしいという思いを込めたのだとか。台湾の誠品書店では床に座って本を読む人も多く、それを許容しているのですが、日本ではなかなか床に座ることはないだろうと判断し、床に座るかのような感覚を畳をあしらうことで表現したベンチを置くことにしたといいます。

「誠品選書」のコーナーは、台湾の誠品書店員がセレクトした本が並ぶ。書店における一等地に設置されており、通常の書店ではここにベストセラーなどが並ぶが、あくまでも書店員目線でレコメンドしたい本を並べることにこだわっている。
「誠品選書」のコーナーは、台湾の誠品書店員がセレクトした本が並ぶ。書店における一等地に設置されており、通常の書店ではここにベストセラーなどが並ぶが、あくまでも書店員目線でレコメンドしたい本を並べることにこだわっている。

誠品選書のコーナー以外にも、誠品書店らしい仕掛けがあります。それが顕著に現れているのが、日台交流コーナーです。本を通じて日本と台湾を結ぶというコンセプトは、まさに台湾発の誠品書店と日本発の有隣堂が一緒に店作りをしているからこそのものだといえるでしょう。

日本と台湾の文学作品を紹介するコーナーもある。普段、なかなか触れることのない台湾文学に触れるきかっけになるはず。
日本と台湾の文学作品を紹介するコーナーもある。普段、なかなか触れることのない台湾文学に触れるきっかけになるはず。

店頭に並べられた本を見ていて気付かされるのが、本に誠品書店の書店員によって書かれたポップがつけられていること。通常、日本の大型書店では出版社が用意した商品ポップを使うことが大半なのですが、誠品書店ではそれらのポップは一切使っていません。あくまでも、書店員が書いたポップだけを使うよう徹底しているのです。小さなこだわりではありますが、本に対する書店員の熱量が感じられますね。

本につけられたポップは書店員が作ったものだけを使用するのが誠品書店のこだわりのひとつ。思わずひとつひとつ手に取ってページを繰ってみたくなる。
本につけられたポップは書店員が作ったものだけを使用するのが誠品書店のこだわりのひとつ。思わずひとつひとつ手に取ってページを繰ってみたくなる。

また、書店を見ていて気になったのが、誠品選書コーナー周り以外にも、読書スペースがたくさん用意されているという点。じっくり腰を据えて本を読みたいときは、文学の廊下の本棚の裏に用意されたスペースがおすすめ。書斎のようなプライベートな空間なので読書がはかどりそうです。

店内には本が読めるスペースが多数用意されている。日本橋の景色が見える本棚裏の読書スペースは、隠れ家気分が楽しめる。
店内には本が読めるスペースが多数用意されている。日本橋の景色が見える本棚裏の読書スペースは、隠れ家気分が楽しめる。

「コミックに加え、アイドルの写真集などの短期間で売れる本を置かないというのは、『誠品書店』の方向性のひとつ。これも日本の書店ではなかなかやらないことです。さらに、驚いたのが本の分類や陳列の仕方にストーリーを持たせるという作業でした」(松信さん)

児童書コーナーの隣に突如現れる時代小説の棚。
児童書コーナーの隣に突如現れる時代小説の棚。

なかでも、ストーリー性が大きく現れるのが、児童書コーナーと時代小説が向かい合う棚です。これは、おじいさんやおばあさんが孫を連れて本を書いに来たときに、お互いが近くで本を手に取ることをイメージしてレイアウトされているといいます。こういったストーリーを紡ぐ作業はこれまでの有隣堂にはなかったことで、「この1~2年でじっくり取り組んでいかないといけない」と松信さんは力を込めていました。

 

書店を再定義することの重要性

今回、有隣堂は誠品書店のライセンシーとして裏方の立場を貫いていますが、日本の書店としては創業110年の歴史を持つ老舗ブランドでもあります。そんな同社が自社の名前を使わずに誠品生活日本橋を手掛けるのには、ある思いがあったのだとか。

「書店というものが、単体では生き残るのが難しくなっているのが現状です。このままでは書店の未来がありません。そこで、プライドを持って老舗として生き残っていくための選択肢のひとつとして、誠品書店と組んで店を出すことを選びました」(松信さん)

この選択に至るまでに、社内でも「どこかで有隣堂の名前を出せないのか?」という声はあったそうです。しかし、自分たちを一度、完全に否定して書店を再定義していかないと、将来的には書店が駄目になるという気持ちが強かったと松信さんは話します。

「少子高齢化で子どもが少なくなるなか、子どもの学力や知力を上げるのに本は欠かせません。いまは7人に1人が貧困層だと言われていますが、その貧困を断ち切るのは容易ではないのが現実です。そんな子どもたちも書店で本を読めば、学びを得られるはず。日本の負の部分を克服するためにも、書店は必要なんです。書店を残すためにも、一時的に自社の名前を使わないことには抵抗はありませんでした」(松信さん)

誠品生活日本橋は、これからの書店の未来を担う大きな存在になることは間違いありません。書店から足が遠のいていた人こそ、ぜひ訪れてみてほしいスポットだといえるでしょう。年末年始のお休みに、一度訪れてみてはいかがでしょうか?

 

さて、誠品生活日本橋の迎える側としての思いを知ったところで、次のページからはフロアを彩るテナントを紹介します。まずは、日本ではここでしか手に入らないなどレアで、かつ素材やデザインにこだわった台湾生まれの物品。