5. ノース・カンタベリー
− プレミアムワインの冷涼産地カンタベリー −
南島の主要都市であるクライストチャーチを包むように広がるカンタベリーは、ニュージーランド随一のプレミアムワイン産地となりつつあります。素晴らしく優しい口当たりのリースリングや、ブルゴーニュを思わせるピノ・ノワールとシャルドネは、短い歴史を感じさせないほどで、世界の最高峰のワインに肉薄するほどの味わいです。
元々、ボルドー品種には涼しすぎることから、ブドウ栽培には不向きとみなされていた地域だったカンタベリーが、わずかな期間で注目される産地になったのには、それを覆したパイオニア的な存在がいます。多くのワインパーソンを送り出しているクライストチャーチのリンカーン大学で、ブドウ栽培を教えていたダニエル・シェスターは、この地域でのピノ・ノワールやリースリングといった冷涼品種の可能性を見出し、1970~80年代に醸造用ブドウ栽培の礎をつくりあげます。そして、今からわずか30年前の1991年に初リリースされた「ペガサス・ベイ」のリースリングが、カンタベリーのプレミアムワインに歴史の一歩を踏み出させました。
そう思うと、1997年に設立された「ベルヒル」は、世界的に見れば新しいワイナリーかもしれませんが、この産地のなかで考えれば老舗の部類に入るのかもしれません。リリースからほどなくニュージーランドでも最高峰、ブルゴーニュのムルソーに匹敵するという高い評価を勝ち得たベルヒルは、その生産本数の少なさ(シャルドネの初期は1樽300本ほど)から日本では知る人も少ないワインでした。ブルゴーニュでも最高の土壌とみなされる石灰岩がむき出しになった産地を選び抜き、カンタベリーのテロワールを信じた末の品質と思うと、感慨深さすらあります。
ピノ・ノワールももちろん素晴らしく、各産地にこういったプレミアムワインが産まれ愛好家にも広く知られれば、現在のブルゴーニュ偏重の価値観にも変化をもたらすのではないかと期待しています。
Bell Hilll(ベルヒル)
「Chardonnay2016(シャルドネ2016)」
1万8000円
輸入元=ワイン・ダイヤモンズ
※ワインの価格はすべて希望小売価格です。
Profile
ソムリエ / 宮地英典(みやじえいすけ)
カウンターイタリアンの名店shibuya-bedの立ち上げからシェフソムリエを務め、退職後にワイン専門の販売会社、ワインコミュニケイトを設立。2019年にイタリアンレストランenoteca miyajiを開店。
https://enoteca.wine-communicate.com/
https://www.facebook.com/enotecamiyaji/
撮影=真名子