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室町時代から正月の食卓を彩る。「雑煮」の奥深い話と
全国5地域のご当地レシピ

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正月にいただく雑煮。その名の通りさまざまな具材が含まれ、全国に100種類以上あるといわれるほど多種多様です。

では、地域によってどのように食され、どのようなバリエーションがあるのでしょうか? 雑煮の歴史や地域性を掘り下げながら、5つの地域の代表的なレシピを紹介します。

のちほど、代表的な5地域の雑煮とそのレシピを紹介。

雑煮は元来
「年神さまへのお供え物」だった

知っていそうで実は知らない「雑煮」の定義をまずはおさらい。福岡県の調味料・食品メーカーで出汁(だし)ブランド「茅乃舎」を展開する久原本家が11月24日(和食の日)に公開したウェブサイト『お雑煮という奇跡』から紐解いてみましょう。

それによると、地域差はあるものの一般的には、すまし汁(だし汁にしょうゆ、塩で味付けた透明な汁もの)、または味噌仕立てのスープに、海や山、里の具材と餅を入れた料理のことを指します。

今でこそ家庭料理としておなじみの存在となりましたが、民俗学者の柳田國男氏によると「元々は新年にやってくる年神(歳神)様に捧げ、それをおろしていただくものだった」そう。また、雑煮が誕生したといわれる室町時代には、上流の武家や公家の間でしか食べられない特別な料理でした。

貴族の“おもてなし料理”から
庶民の“家庭料理”へ

雑煮の記録は、1497年の料理本『山内(やまのうち)料理書』まで遡ります。今日まで500年以上、雑煮はどのように食べ継がれてきたのでしょうか?

最古の記録が残る室町時代の雑煮といえば、正月に限らず上流の武家や公家が客人をもてなす料理。食材は不老長寿を意味するアワビや、米俵に似たナマコなど縁起の良いものを選ぶことで、もてなす側ももてなされる側も幸に溢れ、結束が強まると信じられていました。

こういった風習は、その後の武家社会にも引き継がれ、信長が家康との信頼関係構築のために雑煮を振る舞ったという記録も残っています。

再現された徳川家の雑煮。アワビやナマコなど昔ながらの食材はそのままに、結び昆布など現代にも通じる縁起の良い食材が選ばれている。

江戸時代には徳川家をはじめとした武家だけでなく、庶民の間にも広がって全国でつくられるように。クルマも電車もなく物流が限られていた時代だからこそ、手が届く範囲で採れた食材を使うしかなく、おのずと地域差が出やすい料理となっていきました。

いずれにせよ、どの時代も食べる人の幸せを願い、互いの結束や絆を深める大切な料理であることに変わりはありません。

では、昔のような身分制度がなく物流も豊かになった今、家庭料理として定着した現代の雑煮の姿とは?

ウェブサイトの公開に合わせて同日、久原本家・茅乃舎主催により「お雑煮トークライブ」が開催。お雑煮研究家の粕谷浩子(かすやひろこ)さんをはじめ、フードライターでコラムニストの白央篤司(はくおうあつし)さん、料理家で管理栄養士の長谷川あかりさんら各方面のスペシャリストが集結したこの機会に、“現代の雑煮”について取材しました。

トークセッションの様子。左から粕谷さん、白央さん、長谷川さん、茅乃舎でクリエイティブディレクターを務める斎藤珠美(さいとうたまみ)さん。

「具材」「だし」「餅の形」はさまざま
地域や家庭ごとに個性あふれる現代の雑煮

「お雑煮ナンパ」と称して、全国各地で出会った人にその土地のお雑煮事情を聞いて回っているという粕谷さん。情報収集を続けるなかで、雑煮の多様性に気づかされたといいます。

「日本人なら誰もが知っている存在でありながら、共通言語として語ろうとすると不思議なまでに食い違うのが雑煮の食材。餅の形やだし、味付け、具材は地域ごとに驚くほど異なります。たとえば主役級の食材である餅の形状と調理の仕方の違いを地図に落とし込むと、関ケ原付近を境に定規を縦に引いたように東西に分断されているんですよ!」(お雑煮研究家・粕谷浩子さん、以下同)

「いったいどこから餅の種類は分かれているのだろう?」と疑問に思った粕谷さんは、徹底的な聞き込み調査を決意。まずは滋賀県にある伊吹山の頂上まで登り、眼下に広がる集落を見渡しながら、情報収集先のアタリをつけていったそう。

「餅の形については、例外はあるものの、東日本では焼いた角餅、西日本では煮た丸餅が一般的と言えるのではないでしょうか」

続いて、だしは関西圏を除き、全国的にすまし仕立ての割合が多め。もともとは味噌でつくられていたところ、関東の武家たちが「失敗してしくじる」といった意味合いの「みそをつける」という言葉は縁起が悪いとして、すまし汁に移行していったとか。

「味噌は関西、すまし汁は関東という大まかな区分はあるものの、関西圏でも兵庫県はすまし汁が多かったり、愛媛県は味噌仕立てが多かったり、鳥取や島根、島嶼(とうしょ)地域では小豆汁だったりと、一概に地図上だけでは区分しきれないほど細分化されているところに、雑煮文化の奥深さを感じています」

粕谷さんによると、具材にいたっては、都道府県ごと見事なまでにバラバラなのだそう。

「具材は、海・山・里の食材をたっぷり使った具だくさんな雑煮もあれば、お肉はもってのほかで餅しか入っていない精進料理のような雑煮が存在するなど、地域差が顕著ですね」

地域のなかでも細分化!
家庭の数だけ雑煮の種類は存在する

「地域をもっと細分化すると、同じ県内であっても隣町ではまったく別の雑煮が食べられていたり、家庭ごとに代々受け継がれてきたオリジナルの雑煮があったりと、多様です。それなのに、聞き込みをすると必ずと言っていいほど『ウチのは普通で』とおっしゃる。これがまた面白いですね」

トークライブで紹介された識者それぞれのお気に入りの雑煮にも、その傾向が見受けられます。

粕谷さんが、香川県出身の母方の実家から受け継いだ「香川雑煮」(左)。白味噌仕立て、里いもと大根、金時にんじんの輪切り、あんこ餅を入れ、仕上げにアオサが飾られている。右は、広島出身の父方の実家から受け継いだ「広島雑煮」。すまし汁の中に、煮た丸餅と大根、三つ葉、にんじん、特産の牡蠣(かき)が入っている。

フードライターでコラムニストの白央篤司さんが、新潟県開津地方出身の父方の実家から受け継いだのは「くるみ雑煮」。すまし汁の中に、だいこん、にんじん、ごぼう、しょうゆで煮た鶏肉となるとを入れ、だしで伸ばした山クルミのペーストをかける。

料理家で管理栄養士の長谷川あかりさんが、義理の実家で出会ったのが「牛肉の雑煮」。祖母が牛以外の肉を食べられない祖父に配慮してつくった完全オリジナル。昆布とかつお節でとっただしの中で牛肉をあぶって肉汁をしみこませたあと、餅の上にだしをかける。最後に牛肉とかまぼこ、三つ葉を添えて出来上がり。祖母は大阪出身であるものの、角餅を好んで選んだという。

地域の特色に各家庭の好みがプラスされることで、実はあちこちにオリジナリティの高い雑煮が存在しています。家族にとっては“普通”で“当たり前”な味であっても、伝承されなければ途絶えてしまう“特別な味”。家族を結び付けてくれる懸け橋としても、つくり続けていきたい家庭料理の一つです。

茅乃舎プロデュース
全国のお雑煮レシピ5選

全国に数えきれないほど存在する雑煮の種類。その中でも代表的な5つを紹介します。

■ 博多雑煮

今や全国区の知名度となったあごだし(トビウオのだし)ですが、もともと博多では味でした。具材はブリ、かつお菜、干ししいたけが入った豊かな味わい。

【材料】

・丸餅……2個
・ブリ……2切れ(40g)
・かまぼこ……2切れ
・里いも……2個
・にんじん……2cm
・かつお菜……1/2枚
・干ししいたけ……2枚

〈A〉
・博多限定 茅乃舎あごだし……1袋
・水……400ml

〈B〉
・うす口しょうゆ……小さじ1
・みりん……小さじ2
・塩……少々
・干ししいたけの戻し汁……50ml

・柚子皮……適量

【作り方】

1.餅は茹でる。ブリは塩(分量外)を多めにふる。里いもは皮を剥き、にんじんは“梅にんじん”を作り、それぞれ下茹でする。かつお菜は茹でて3cm幅に切る。干ししいたけは水で戻す。

2.〈A〉を火にかけ、沸騰後、中火で2~3分煮出し、〈B〉を加える。

3.2にかまぼこ、にんじん、里いも、干ししいたけを加え、具材が温まったら、餅、かつお菜、別鍋で茹でたブリを椀に盛り、他の具材も盛り付ける。2を注ぎ、柚子皮を添える。

■ 関東風雑煮

江戸時代の武士の縁起担ぎに由来して「勝負に味噌をつけない」ことから、澄まし汁を使った関東の雑煮。鶏肉、小松菜に華やかな海老を加えたバージョンです。

【材料】

・角餅……2個
・鶏むね肉……50g
・クルマエビ……2尾
・にんじん……2cm
・なると……2切れ

〈A〉
東京限定 茅乃舎かつおだし……2袋
水…… 500ml

〈B〉
うす口しょうゆ……小さじ2
酒…… 小さじ1
塩…… 少々
小松菜 ……適量

【作り方】

1.鶏肉は一口大に切る。クルマエビは背わたをとって下茹でする。にんじんは1cm幅に切り、型抜きして軽く茹でる。小松菜は茹でて3cm幅に切る。

2.〈A〉を火にかけ、沸騰したら2~3分煮出し、〈B〉を加える。

3.鶏肉、クルマエビ、にんじんを加えて弱火にかけ、鶏肉に火が通ったらなるとを加えて軽く煮る。焼いた餅とともに椀に盛り、小松菜を添える。

■ 関西風雑煮

関西地方では、雑煮に甘い白味噌を使います。肉類は入れず、金時にんじん、里いもが白味噌にぴったり。かつお節や昆布を使っただしなら、やさしい味わいに仕上がります。

【材料】

・丸餅……2個
・里いも……2個
・だいこん……1cm
・金時にんじん……1cm

〈A〉
・京都限定 茅乃舎おだし……1袋
・水……400ml

・白味噌……60g
・花かつお……少々

【作り方】

1.里芋は亀甲形に皮を剥いて、大根、人参も皮を剥いて5mm幅に切り、それぞれ下茹でする。餅は固めに茹でておく。

2.〈A〉を火にかけ、沸騰したら2~3分煮出し、 白味噌を溶き入れる。

3.2を弱火にして1を加え、柔らかくなったら椀に盛り、花かつおをのせる。

■ 出雲雑煮(島根)

餅の上にのせた十六島(うっぷるい)海苔が主役の、出雲地方の雑煮。十六島海苔とは島根県出雲市の十六島周辺でとれる岩海苔で、その歴史は古く、奈良・平安時代の献納品でした。厳しい荒波に洗われる岩に張りついた海苔を、海女や漁師が命がけで採った貴重品。やわらかな歯ごたえで、磯の香りが口いっぱいに広がります。せりと丸餅と海苔だけのシンプルな見栄えながらで、海への畏敬の念が表現されているようなおごそかな雰囲気があります。

【材料】

・鰹(カツオ)と昆布の合わせだし……500ml

〈A〉
・塩……小さじ1/2
・うす口しょうゆ……小さじ1/2

・丸餅……2個
・十六島海苔……適量
・せり……4本
・日本酒……適量

【作り方】

1.カツオと昆布のだしに〈A〉を入れる。

2.せりは茹でてから結んで“結びせり”にする。

3.海苔は日本酒をかけて柔らかくする。

4.餅は柔らかくなるまで茹でる。

5.椀に、餅、結びせりをのせて、海苔を天盛りにし、熱い1を張る。

■ 鮭雑煮(新潟)

東日本では鮭(サケ)が、西日本では鰤(ブリ)が正月のお祝いに使われてきました。越後村上では、平安時代から鮭を献上しており、冬になると鮭の塩引きが軒先に下がるのが風物詩となっています。鮭とイクラに加え、だいこん、にんじん、里いもといった根菜、こんにゃくやかんぴょうなど具だくさん。根菜類の滋養が溶け合い、体の芯からあたたまる華やかな雑煮です。

【材料】

・煮干しのだし……500ml

〈A〉
・塩……小さじ1/2
・うす口醤油……小さじ1/2

・角餅……2個
・大根……3cm
・人参……3cm
・里芋……1個
・かんぴょう……20cm
・つきこんにゃく……1/4袋
・塩ザケ……1切れ
・イクラ……大さじ2

【作り方】

1.煮干しのだしに〈A〉を入れる。

2.だいこん、にんじんは短冊切にして、水から下茹でする。

3.里いもは皮を剥き、乱切りにして、米のとぎ汁で茹でる。

4.かんぴょうは洗ってから塩(分量外)揉みして約15分置いて戻し、熱湯で8分茹でる。

5.つきこんにゃくは熱湯で茹でる。

6.サケは適当な大きさに切り、霜降りをする。

7.1に2、3、4、5、6を入れて、少し煮て味を含ませる。

8.餅は熱湯で柔らかくなるまで茹でる。

9.椀に餅と具材を入れ、熱い汁を張ったら、イクラを天盛りにする。

家庭でも本格的な味を楽しめる「茅乃舎のだし」

上の「博多雑煮」「関東雑煮」「関西雑煮」のレシピに使用されているのは、家庭でもレストランの味が楽しめる「茅乃舎のだし」シリーズ。化学調味料・保存料の無添加にこだわり抜いいています。

「茅乃舎」のだし商品の一部。

特別な日だけではなく、普段の食事にも取り入れて

雑煮は日本古来の伝統的な食文化でありながら、家庭ごとの味があるなど多様性をもって受け継がれているところが魅力です。一杯のお椀を食べるだけで体もポカポカ温まり、栄養もたっぷり。正月、ハレの日にとどまらず、普段の食事にも取り入れてはいかがでしょうか?

取材・文=@Living編集部 撮影=真名子 取材協力=久原本家