東京・築地にある、7坪ほどの小さな立ち飲みワインショップ&バー「酒美土場」。営業時間は10時から15時と、先日まで開いていた築地市場の開場時間にならったとはいえ、夜営業のない一風変わったワインバーです。場所柄、外国人客も多く集まるこの店に、世界各国のワイン好きも満足する理由は、個性的なワインの品揃えにあります。
注目すべきは、「オレンジワイン」の陳列コーナー。店主の岩井穂純さんがセレクトするワインが人気を呼び、今では“オレンジワインがあれこれ飲める店”として、知る人ぞ知る存在となりました。「場所柄、日本のワインは多く扱っていますが、やっぱり最近は、オレンジワインを求めていらっしゃる方が多いですね。うちでは、日によって3〜5種類のオレンジワインがグラスで楽しめます」(岩井さん、以下同)
「オレンジワイン」ってなに?
お馴染みの白ワイン、赤ワイン、ロゼワインに加えて“第4の色”とも言われるオレンジワイン。新しい色かと思いきや、そのルーツは、考古学上ワイン発祥の地として知られるジョージアワインにあるといいます。このジョージアワインは、「クヴェヴリ」という地中に埋められた大きな甕の中で、ブドウの果汁を皮と種と一緒に醸す伝統製法で、赤ワインだけでなく白ワインも造られます。
近代的な白ワインの製法とは、収穫後のブドウから皮と種が取り除かれ、果汁だけが発酵されるというもの。これによって、私たちがよく知るあの透明感ある白ワインに仕上がります。一方オレンジワインは、白ブドウまたはグリ(灰色)ブドウを、黒ブドウで赤ワインを造るのと同様、果汁を皮と種とともに一定期間浸漬させながら発酵するため、複雑な旨味と独特の色合いが抽出されるのです。このような製法で造られたワインは今、世界各国で「オレンジワイン」、または「アンバー(琥珀)ワイン」と呼ばれています。
造り手の意図に想いを馳せながら
「もちろん、オレンジワインをまったくご存知ないお客様も、たくさんお店にはいらっしゃいます。そんな時はまず、『オレンジワインといっても、柑橘類から造られたワインじゃないんですよ〜』なんて会話からスタートしますね(笑)。オレンジワインにも他のワイン同様、ブドウ品種の種類、醸し期間の違いなどによってさまざまな味わいがあって、初めての方にはまず飲みやすい、例えばこんなオレンジワインから飲んでいただきます」
そう言って、岩井さんがまず私たちのグラスに注いでくれたのは、山形県置賜産のデラウェアを数日間醸し発酵させた、日本のオレンジワイン。味わいは、まさに生のデラウェアをそのままかじっているようなニュアンス。
「デラウェアって、子供の頃よく食べましたよね? 僕たち日本人が慣れ親しんだあのデラウェアの魅力を、あますところなく表現したようなワインです。生食用は種無し処理をされますが、その作業も、高齢化と人手不足の農家さんには大きな負担。でもワイン用のデラウェアは種有りのまま。ならばせっかくだから、その種も皮も“ワインの要素”として取り入れてデラウェア本来の味わいを表現しましょうという、造り手さん自身の想いが伝わるようなワインです」
造り手は、なぜ通常の白ワインではなく、オレンジワインを造るのか? 新しいムーブメントなだけに、そこには明確な意図があるはず。
皮と種の抗酸化作用によって、通常の白ワインよりも亜硫酸(酸化防止剤)の添加を抑えられると考える造り手、新興産地ゆえにその土地の気候風土(テロワール)の表現よりブドウそのものの質を追求した結果、ブドウからは何も取り除かずそのすべてをワインに表現したいと考える造り手、はたまた、今話題だから自分にも造れるかどうかチャレンジしてみたい、という造り手。崇高な哲学から興味の探求まで、意図はさまざまでも何かしらはあるはず、と岩井さんは言います。
スローフード、自然派志向、原点回帰など、ワインの世界のみならず、私たち消費者の心を動かしやすいキーワードが市場に溢れています。そのなかで、単にそれらのワードを受け取るだけでなくその意図を探る意識を持つことで、私たちの食生活はより豊かなものになるかも知れません。
岩井さんがおすすめするオレンジワイン
ジェニ・デ・フルール「ノール 2017」(フランス・ラングドック/クレレット100%/醸し期間10日)
ドメーヌ・スローズ「ペトロレット 2016」(フランス・プロヴァンス/ユニブラン50%クレレット50%/醸し期間約2カ月)
ピクェントゥム「マルヴァジア 2016」(クロアチア/マルヴァジア100%/醸し期間4日~7日)
清澄白河フジマル醸造所「デラウェア ペリキュレール by Sato」(日本/山形県置賜産デラウェア100%)
では、オレンジワインをもっと身近に楽しむために、どんな料理と合わせたらいいか、考えてみましょう。