“初潮”がはじまった10代前半から、閉経を迎える50歳前後まで、女性にはいったい何日間、生理の日があるでしょうか? 例えば12歳で生理が来て50歳で閉経し、その間、生理周期が28日で1回の生理期間が5日間と仮定すると、約2470日。トータルでおよそ7年もの期間にのぼる計算になります。
生理の度に生理痛に悩まされたり、ひどい倦怠感があったり、気分が沈んだりする場合、痛みや、心と体の不調を改善する対策をしなければ、これだけ多くの時間を憂鬱な気分で過ごさなければならないことに。
東京・丸の内に「丸の内の森レディースクリニック」を開設し、メディアに出演するほか多くの著書を持つ産婦人科医の宋美玄(ソン・ミヒョン)先生は、多くの女性の「生理」に関する情報のアップデート不足が深刻だと言います。痛みをガマンする必要はないし、生理の不調から解放される方法はたくさんあることを知って欲しいと話す宋先生。生理痛対策を中心に、おさえておくべき生理の真実について、解説していただきました。
生理痛を引き起こす要因は「プロスタグランジン」の分泌
生理は一般的に毎月1回、3~7日ほど出血が続きます。生理痛は、生理が始まってすぐの“重い日”に起きることが多く、起きていられないほどの痛みに襲われる人も少なくありません。
「子宮内では、毎月『受精卵』を受け止めるための『子宮内膜』が作られています。妊娠をしないとその内膜が不要になるため、血液と一緒に対外に排出されるのが生理です。内膜が子宮からはがれるとき、発熱や痛みを起こす物質『プロスタグランジン』が分泌されることにより、子宮が収縮します。このときに発生する痛みが、生理痛を引き起こしています。
腹部の痛み以外にも、頭痛や腰痛などの痛みとして出る方もいます。またプロスタグランジンは腸の動きにも影響するので、生理中には便秘が解消したり下痢気味になったりする場合もあります」(丸の内レディースクリニック院長・宋美玄先生)
「生理痛は仕方ない」? 痛みとの正しい付き合い方
不要となった子宮内膜を外に出すための子宮収縮を起こすプロスタグランジンが、痛みの要因ということならば、痛みがあることは仕方のないことなのでしょうか?
「必然の痛みとは言えますが、痛むのをガマンし続ける必要は、まったくありません。痛み始めたら、早急に生理痛に効く鎮痛剤を飲み、痛みを軽減させましょう。鎮痛剤は市販のものでかまいませんが、眠気の出やすいもの、胃の弱い方には適さないものなどがあります。15歳未満は服用できないものもあります。それらの条件を避けた鎮痛剤については、薬剤師に相談し、適したものを選ぶといいでしょう。婦人科を受診して自分の体質に合ったものを処方してもらえるとよいかもしれません。しかも、病院で処方された薬は保険が適用されるので安く手に入れられると思います。
鎮痛剤を飲み続けることで、将来妊娠したときに赤ちゃんに悪影響が出るのでは、と心配している方もいますが、薬の成分は一定期間経つと対外に排出されるので、鎮痛剤を服用し続けたことが妊娠に悪影響を及ぼすことはないでしょう。生理痛をやわらげる対策として、腹部を湯たんぽやカイロで温める方法もよく聞きます。温めることで痛みがやわらぐのであれば、ご自身にとっての心地よい範囲で取り入れるようにしましょう。
ただし、子宮は体の中心部にあり、外気の影響を受けることはないので、本来は冷える臓器ではありません。暑い時期にだらだらと汗をかきながらガマンして温める必要はないでしょう。紙ナプキンを使うと子宮が冷えるという説も、正しい情報とは言えません」(宋美玄先生)
生理痛の裏に潜む“病気”にも要注意!
生理痛には大きく分けて「機能性月経困難症」と「器質性月経困難症」があるという宋先生。
「機能性月経困難症とは、プロスタグランジンの影響で痛みが発生している、子宮本来の機能から生じている生理痛をいいます。一般的に若い世代に起きやすい痛みです。20代前半くらいまでの若い世代は、本来、女性の体としては妊娠適齢期です。そのため、赤ちゃんを迎える準備がピークを迎えていて、女性ホルモンの分泌量が多くなります。その分、子宮内膜が厚く、出血量が多くなるので、プロスタグランジンの分泌も増えるのです。
もう一つの器質性月経困難症は、『子宮筋腫』や『子宮内膜症』、子宮内のポリープなどによる影響で痛みが増している状態を言います。子宮筋腫があると子宮の内宮の形がいびつになったり引き延ばされたりして内膜の面積が広がるので、生理が重くなります。器質性月経困難症は30代以降の女性の生理痛として起きやすい症状ですが、最近は10~20代前半の女性の間でも子宮内膜症を患う方が増えていて、今や国民病とも言われています。
子宮内膜症については次に説明しますが、生理の度に生理痛があり、鎮痛剤を飲まないと日常生活に支障がある状態は、器質性月経困難症の可能性があります。一方で、生理痛の症状がないまま子宮内膜症が進行している場合もあります。初潮を迎えてからは子宮と卵巣のチェックのため、1年に1回くらいは婦人科を受診して欲しいです」(宋美玄先生)
月経のある現代女性の10人に1人が子宮内膜症に
最近は、月経のある女性の10~15%が子宮内膜症を患うと言われています。国民病とまで言われるほどの状況が起きているのはなぜでしょうか?
「子宮内膜症の要因はいろいろありますが、今もっとも大きな要因として考えられているのは、生理の血が逆流することです。生理の血はすべて下に流れ出ていると考えがちですが、卵管を伝って臓器の方にも逆流しています。このとき、子宮内膜の組織が生きたままほかの臓器に移動してしまうことがあり、その移動先で次の月から生理を起こすことがあります。
卵巣や卵管、腹膜、子宮と直腸の間にあるくぼみなど、本来は内膜ができるはずのないところで増殖すると深刻です。内膜が子宮以外にできると排出されないので、炎症や癒着が起きます。組織同士がくっついて詰まってしまうので、妊娠もしづらくなるだけでなく、腸閉塞になることもあります。卵巣にできた子宮内膜組織が袋のようになって血液を溜め込んでしまう『チョコレート嚢胞(のうほう)』になると、子宮を摘出する手術が必要になる可能性もあります。
妊娠する機会が減っている現代は、その分、生理の回数が増えるので、子宮内膜症の発生リスクが高くなっています。100年くらい前の女性と比べると、現代女性の生理の回数は約10倍だと言われています。それだけ、子宮の負担が増えていることは軽視できない状況です」(宋美玄先生)
生理の回数が多すぎる現代は「ピル」で卵巣を休めたい
10代後半から妊娠をし、1人で5~6人の出産が当たり前だった時代と比べれば、現代女性の生理の回数が10倍くらいまで増えているのも納得できます。
「平均寿命は伸びているし、栄養状態が良いので、初潮の時期が早まっていることからも生理の期間が長くなりますよね。10代後半から20代前半くらいの一番生理が重くなる時期に、子宮を休ませることなく、ずっと排卵をしていることの方が異常な状態だと言えます。
生理は、赤ちゃんを生む準備をするために必要な存在です。来月には妊娠したいと考えている女性以外にとっては、直近の生理は必要ありません。今は生理を3~4か月に1度のペースに抑えるような製剤が増えているので、ピルや黄体ホルモン剤(ミニピル)などを飲むことで、排卵の回数を減らす対処法は積極的に取り組んで欲しいです。
ピルを飲むと妊娠しづらくなる、太りやすくなるというような副作用を心配する人がいますが、現在の低用量ピルでは問題ありません。むしろ、将来妊娠したいと考えている女性ほど、ピルを飲んで不要な排卵による卵巣への負担を減らしてあげたいところです。卵巣の負担を減らすことで、不妊の要因である子宮内膜症や子宮筋腫の発症率を減らすこともできます。また、体調不良やメンタル不調になりやすいPMS(月経前症候群)や、感情のコントロールが難しくなるPMDD(月経前不快気分障害)の緩和にもピルは効果的です」(宋美玄先生)
月経困難症対策には「避妊リング」も効果的
ピルは望まない妊娠を防ぐだけではなく、女性の卵巣を休ませる効果があるのですね。
「ピルの種類にもよりますが、月に数百円ほどの黄体ホルモン剤からあります。平均すると月に1500~2000円くらいで、最大3か月分を一度の受診で処方できるので、忙しい方でも取り入れやすいと思います。
ほかにも、最近注目されている月経困難症対策に避妊リング『ミレーナ』があります。これは3cmほどの小さな器具に黄体ホルモンを染み込ませたもので、子宮内に挿れておくことで、器具から黄体ホルモンが放出されます。これにより、子宮内膜が薄くなり、生理がほぼなくなります。1度装着すると5年間使え、月経困難症の対策の治療として取り入れれば保険が適用され、費用負担は約1万円ほどです。ミレーナを装着した翌月と3か月目は検診が必要になりますが、それ以降は1年ごとの定期検診でOK。避妊効果もあるので、妊娠したくなったタイミングで除去します。
私は5年前から使っていて、先日取り替えました。生理が劇的にラクになるし、生理痛からも解放されます。私には小学4年生の娘がいますが、彼女が初潮を迎えたらミレーナを装着させる予定です。子どもの時期から使えるので、不必要な生理や生理痛から解放してあげる意味でも、お子さんがいる方にも広めていきたいです」(宋美玄先生)
続いて、いま注目の「月経カップ」や「吸収型サニタリーショーツ」など、生理の日を少しでも快適に過ごすためのグッズを、宋美玄先生にピックアップしていただきました。