健康な毎日は良質な眠りから。ここでは、眠気を高め、ぐっすり朝まで良い眠りを実現するための「睡眠術」を、快眠セラピスト/睡眠環境プランナーの三橋美穂さんにアドバイスしていただきました。眠りの質がよくなるメソッドを実践して毎日快眠を得られれば気持ちが前向きになり、暮らしも豊かになります。早速、快眠グッズも合わせて紹介していきましょう。
毎日理想の眠りに導くために
したほうがいいこと、しないほうがいいこと
———疲れているはずなのに、会社から帰宅してもなかなか眠くならないという人は多いと思います。原因として何が考えられますか?
三橋さん:眠気は疲れに比例して強くなります。夜になると疲れがたまり、夕食後は副交感神経が働くので、つい眠くなってしまいますよね。しかし、夜に良い睡眠をとるために気を付けることがあります。それは、就寝前8時間にはしっかり起きておくというのが大事なのです。帰宅途中の電車で居眠りをしたり、晩ごはんの後にテレビを見ながらソファでウトウトしたりしていませんか? うたた寝や居眠りをしてしまうと、疲れが軽減され眠気が弱くなり、就寝時間になっても眠気が来ないことがあります。寝つきの悪さはうたた寝が原因かもしれないのです。
———帰宅後の照明は眠気に影響しますか?
三橋さん:もちろん影響があります。日中は青白い光を浴びると活動的で元気になるし、夕方以降は夕陽のような暖色系の光にするとだんだんとくつろぎモードになってくる。照度が落ちるほど、暗ければ暗いほど睡眠ホルモンといわれるメラトニンが分泌されます。ですからお家に帰ってからは照明を落とし気味にして、就寝の1時間前くらいからはさらに照明を暗くしていくと眠気が高まってきます。最近では1つの照明で色や明るさが変えられるLEDもありますし、スポットライトやダウンライトだけで過ごすのもオススメです。照明に関しては海外のホテルの部屋をイメージしてお手本にするといいね。日本人は青白い蛍光灯の明かりに慣れてしまっていますが、夜は暖色系の少し暗め明かりで過ごしていると、すごくくつろげるはずです。
———寝る前にしたほうがいいこと、しないほうがいいことはありますか?
三橋さん:寝る前にしたほうがいいことは、リラックスできる音楽を聴いたり、ストレッチをするのがおすすめ。そして良質な眠りの環境を整える前提としては、何より照明を暗くすることが大切です。
———どんな音楽を聞くとスムーズに眠気がやってきますか?
三橋さん:音楽はゆっくりしたテンポの音楽がいいですね。呼吸のリズムが音楽と合ってきてリラックスして眠気がやってきます。また就寝前は歌詞のない音楽がおすすめです。歌詞があると脳の言語野が刺激されて、内容を考えてしまうから眠れなくなります。また、環境音楽やリラクゼーション音楽には川のせせらぎや波の音が入っていて、癒しの効果を与えるといわれています。これは「1/fゆらぎ」というリラックスを誘う信号が含まれるためで、眠りにつくまでに聴くのも、とてもおすすめです。
———快眠のためにアロマを取り入れるのはいかがですか?
三橋さん:香りは一瞬で気持ちを切り替えることができるので、アロマも上手に使うといいですね。リフレッシュしたいときや朝スッキリしたいときにはレモンやミントの香りがいいです。リラックスしたい気分のとき、寝る前の時間にはラベンダーやゼラニウム、スイートオレンジ、ベルガモット、シダーウッドなどがいいですね。
———眠りに効果があるというラベンダーの香りを嗅いでも、なかなか眠れないという人の話を聞いたことがありますが……。
三橋さん:ラベンダーの中でも睡眠に適しているのは「真正ラベンダー」です。これは酢酸リナリルという成分の含有量が35%以上のものをいいます。酢酸リナリルの含有量が少ないものは、あまり眠りの助けになりませんから、真正ラベンダーを選ぶのがいいでしょう。ラベルに書いてある場合もありますし、お店の方に聞けばわかります。
———反対に、寝る前にしないほうがいいことはどんなことですか?
三橋さん:寝る前にしないほうがいいのは、飲酒、たばこ、カフェイン、夜食などをとること、スマホなどでブルーライトを浴びること、そして就寝直前に熱いお風呂に入ることです。お酒は眠りを浅くしますし、アルコールが分解された後に交感神経が働いて目が覚めてしまいます。たばこは1~2時間、カフェインは一般的には4~5時間覚せい作用が続くといわれています。夜食は内臓が動いていることで体温が下がりにくくなるので睡眠を妨げます。パソコンやスマホから発せられるブルーライトもメラトニンの分泌を妨げるので就寝前1、2時間はNGです。どうしても使いたい場合には、ブルーライトカットメガネをするか、画面の照度をできるだけ落としましょう。熱いお風呂は交感神経を刺激して眠りを妨げてしまいます。就寝前のお風呂の適正温度は38~40℃くらいのぬるめのお風呂がいいしょう。ちなみに、私は寝る前にお風呂に入るときはお風呂場の電気をつけません。脱衣所の照明の光だけで見えるので、強い光の刺激で眠気が覚めるのを防げますし、その方がくつろげるからです。
気持ちよく眠りにつくために
寝室の色や枕を少し変えてみましょう
———よく眠れる寝室は、どんなカラーリングであるべきでしょうか?
三橋さん:寝室の色はできるだけ柔らかい色味にしましょう。メインカラーはベージュとかパステルカラーなどの淡い色が適しています。それからあまりごちゃごちゃとたくさんの色を使わないこと。メインカラーとサブカラー、だいたい2、3色くらいに絞ると、コーディネートもしやすいですし、リラックスして入眠に導きやすい寝室になります。
———寝室に向いていない色というのはありますか?
三橋さん:色による筋肉の緊張度を調べた実験では、鮮やかな黄色、オレンジ、赤は脳を興奮させ緊張度が高まることがわかっています。もっともリラックス効果が高い色はベージュとパステルカラーでした。青や緑は彩度が高くてもリラックス効果が期待できます。緑は目覚めと入眠のバランスがいい色なのでオススメです。ただし鮮やかな青を基調にした寝室ですと、とくに冬場の寒い朝は起きにくいかもしれませんね。
———次は枕のアドバイスをお願いします。
三橋さん:私はこれまで1万人以上の人に枕のアドバイスをしてきましたが、その経験から言えるのは、枕は自分で思う以上に低いものが合います。
———それは意外です! そもそも枕の役割ってなんでしょうか?
三橋さん:枕は、マットレスと首から後頭部にかけてできるすき間を埋めることが最も大切な機能です。じつは、寝る姿勢は立ち姿に近いのが理想なんですよ。その姿勢が楽だからです。多くの人は高すぎる枕で寝ていますが、枕が高すぎると、肩こり、いびき、首シワ、二重あご、ほうれい線の原因になります。
———枕の形状で選ぶべきポイントはありますか?
三橋さん:枕の両サイドが少し高くなっている枕を選ぶことです。あお向けは中央で、ゴロンと寝返りをしたときに両サイドの高くなっている部分で横向きになる、どちらも楽に眠れます。
———最近はたくさんの種類の枕があって選ぶのも大変ですよね。
三橋さん:枕を購入するときは百貨店の寝具売り場や専門店で、是非、枕アドバイザーに相談することをおすすめします。アドバイザーの方の知識も様々なので、ひとつの目安としてお家の寝具の堅さを確認しながらアドバイスしてくれる方なら安心です。沈みやすいマットレスだと、枕と首から後頭部にかけてのすき間が薄くなりますが、そこまで配慮してアドバイスしてくださる方なら信頼できます。
———ところで、部屋は暗いほど眠りにはいいんでしょうか?
三橋さん:そうです。部屋は暗ければ暗いほどよく眠れます。暗いといっても夜中に目を覚ました時に周囲が見渡せるくらいの、ほのかな明かりがあったほうが安心ですよね。ですからお部屋の遮光カーテンも2級遮光くらいなら部屋の照明をすべて消しても、外の明かりでなんとなく部屋の様子はわかります。
———寝るとき豆球はつけて寝る方がいいですか? 消して寝る方がいいですか?
三橋さん:天井照明の常夜灯(豆電球)だと光が直接目に入ってしまい、メラトニンの分泌が抑えられて眠りが浅くなってしまいます。暗いと不安という人は間接照明を足元に置いておくとをおすすめします。天井照明の豆電球をつけっぱなしにしていると眠りが浅くなるだけでなく、肥満にも影響するそうです。奈良県立医科大学の研究によると「豆電球をつけて寝ている人は、肥満率が消して寝ている人の約2倍」多かったそうです。睡眠ホルモンのメラトニンは暗い方が分泌されやすいため、明るいと刺激によって眠りが浅くなり、その結果、食欲ホルモンが増進するからではないかと考えられています。
いびき、むくみ、足がつる……
悩みを解消する快眠メソッド
———眠っている間の悩みもいくつかありますね。いびき、足がつる、足がむくむなどが代表例かと思いますが、対策を教えていただけますか?
三橋さん:まずはいびきですが、軽いいびきであれば、枕の高さを合わせてあげればだいたい改善されます。睡眠時無呼吸症候群のように途中で呼吸が止まってしまうようないびきは、枕だけでは改善がむずかしいので、一度かかりつけの病院などに相談してください。大きいいびきの人は仰向けに寝ないほうがいい。仰向けに寝ると重力で舌がのどの奥に下がり、気道が狭くなりやすいので横向きやうつ伏せ寝がおすすめです。
———それと、寝ている間に足がつるのも怖いですよね。原因はなんでしょうか?
三橋さん:女性は特に寝ている間に足がつる人が多いようです。原因は冷えと水分不足。睡眠中は汗を大量にかきますし、明け方は体温も下がります。足がつる方はしめつけの少ないレッグウォーマーをして寝るのがいいでしょう。
———むくみ対策はいかがでしょうか?
三橋さん:むくみがひどいときには着圧靴下を履いて寝るのがおすすめです。むくみの原因は心臓に血液が戻りにくいことにありますので、ヒザに向かって段階的に圧が弱くなるように作られていて筋肉のポンプ作用を補って静脈の流れをサポートしてくれます。
睡眠習慣を見直すと人生が変わります
———仕事の関係で早番の勤務がある人もいると思います。起床時間が夜明け前でもスッと起きられるいい方法はありますか?
三橋さん:コンセントタイマーはすごく便利です。私は入/切の両方できるものを愛用しています。就寝前はアロマディフューザーを入れてそのまま眠ることもできます。朝の目覚めが悪い人は、デスクライトをコンセントタイマーの入りの方にセットして、目覚ましのなる時間に顔にライトが当たる位置に置いておけば、大抵の方は起きられます。
———一度目を開けたのに、二度寝してしまう人はどうすればいいでしょうか?
三橋さん:私はスマートフォンで目覚ましをセットして、それをあえて寝室ではなくキッチンで鳴るようにしています。半年くらい前からは歩いて止めにいった後に、ハンディモップで床掃除をすることにしています。目を開けるだけだと、また二度寝したくなってしまいますが、立ち上がって歩くと活動モードになるので寝起きのよくない方には特にオススメです。
———快眠メソッドを色々と伺ってきましたが、実際は何時間くらい眠るのがいいのでしょうか?
三橋さん:何時間眠るのがいいのかは、人によって個人差がありますし、年齢によっても違います。目安として25歳は7時間、45歳は6時間半、65歳は6時間睡眠、寝付くまでの時間をプラス30分くらいと考えてください。
———睡眠時間が短くても大丈夫な人もいますよね?
三橋さん:十分な睡眠がとれているかを日中の状態で判断することもできます。午前10時から正午までは、本来は脳が一番シャキッとしている時間帯。そこですっきりしていたり、仕事に集中できているのであれば、しっかりと睡眠がとれています。逆に体が怠かったり、イライラしたり、ミスが多いときは睡眠不足かもしれません。
———目を閉じるとすぐ眠れるという人もいますが……。
三橋さん:それはただの睡眠不足です。眠りに飢えていて、気絶しているようなものです。そういう状態であればもう少し睡眠をとったほうがいいと思います。いつでもどこでも眠れる人も、気絶睡眠ですね。
———週末の寝だめで睡眠不足を解消している人も多いですが、この方法いかがですか?
三橋さん:平日と休日で睡眠時間が2時間以上違う人は平日の睡眠時間が大きく足りていません。休日は寝だめするという人もいますが、一時的に疲れは取れても根本的な改善にはなりません。平日、仕事のパフォーマンスも落ちている可能性が高いです。だから残業も増え、帰宅も遅くなり、そのため睡眠時間も減るという悪循環が起きているかもしれません。平日と休日が同じ睡眠時間が理想ですが、せめてその差を2時間以内にしましょう。睡眠不足は、負債のようなもの。いつかは返さなければいけません。土日が休みの場合には、土曜日に返すのが基本です。日曜も遅くまで寝ていると、夜に眠れずに月曜から寝不足の悪循環になっていますからです。
———心地よく眠ることは人生を左右するといってもいい過ぎではないようですね。
三橋さん:眠れないと不安が強くなったり、自分を責めたり、ネガティブになります。ある研究では4時間半の睡眠が5日間続くだけで、脳はウツに近い状態になり機能低下を起こすというデータがあります。4時間睡眠の場合、眠気を感じなくても、仕事のミスは8時間睡眠の約6倍になるそうです。仕事のストレスで眠れないという人も、もしかしたら睡眠不足が重なって日中のストレスを強く感じて眠れなくなっている可能性もあります。しっかり眠ると前向きになります。だから眠ることは人生の根幹に関わると思います。よい人生を送るために、是非睡眠習慣を見直してください。
Profile
三橋 美穂
快眠セラピスト・睡眠環境プランナー。寝具メーカーの研究開発部長を経て2003年に独立。全国での講演や執筆、個人相談のほか、ベッドメーカーのコンサルティング、ホテルのコーディネート、快眠グッズのプロデュースなど、企業の睡眠関連事業にも広く携わる。1万人のフィッティングをしてきた経験から、その人の頭を触っただけでどんなタイプの枕が合うかわかるほど。NHK「おはよう日本」やフジテレビ系「バイキング」などにも出演するほか、数多くの女性誌で快眠メソッドを紹介。『睡眠メソッド100』(かんき出版)、『脳が若返る快眠の技術』(KADOKAWA)を始めとする多数の著書をもつ。
取材・文=ナナイロ社 撮影=岩井賢一