自宅でワインを楽しみたい、できれば産地や銘柄にもこだわりたい、ワインを開けて注ぎ、グラスを傾ける仕草もスマートにしたい……。そう思っても、基本はなかなか他人には聞きにくいもの。この連載では、そういったノウハウや、知っておくとグラスを交わす誰かと話が弾むかもしれない知識を、ソムリエを招いて教えていただきます。
「ワインの世界を旅する」と題し、世界各国の産地について、キーワード盛りだくさんで詳しく掘り下げていくこのシリーズ、「フランス」に続く今回は、「イタリア」。寄稿していただくのは引き続き、渋谷にワインレストランを構えるソムリエ、宮地英典さんです。
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イタリアワインを旅する
紀元前にイタリアに入植したギリシャ人は、イタリアの地を“ワインの大地=エノトリーア”と呼んだといわれています。現代でも、イタリアのように国中の全土と言っていいほど、さかんにブドウ栽培が行われている国は珍しく、フランスと肩を並べるほどのワイン生産国。20州それぞれの多様な個性を表現したワインは、その文化と郷土料理と相まって、多くの人を魅了しています。
ですが裏を返せば、その多様性はイタリアワインを“難解で選びにくいワイン”にしていることも事実です。その原因のひとつには、現在進行形で議論されていますが、ラベル表示のわかりにくさが挙げられるでしょう。州ごとの個性とはいっても州の名前自体は記載されておらず、「DOCG」や「DOC」、そして「IGT」といった原産地呼称と合わせて消費者目線に立ったラベル表示は、これからイタリアワインがより個性を発露するためにも、課題としてとらえ解決に取り組む必要があるのではないでしょうか。
今回は、初心者に向けたイタリアワインの入り口として、代表的な5つの州と5つのワインをご紹介しながら、私が考えるよりわかりやすいイタリアワインの表示と、イタリアワインの選び方をお伝えすることができればと思います。
・ピエモンテ州
・トスカーナ
・シチリア
・ヴェネト
・トレンティーノ=アルト・アディジェ
ピエモンテ州 ~尾根に連なる美しいブドウ畑と「バローロ」~
ピエモンテの州都トリノは、2006年に冬季五輪が開催されたことでも知られるほか、サッカーチーム「ユヴェントス」のホームタウンといえば、ワインに馴染みのない方でもピンとくるかもしれませんね。19世紀、イタリア王国時代には首都だったということもあり、歴史のあるバロック建築の街並みは荘厳で、往時を想像させる魅力的な都市です。当時からそのままに残る数々の老舗カフェで、原産地呼称指定されているチョコレートドリンク“ビチェリン”を楽しむのも、トリノでの素敵な時間の過ごし方です。
このピエモンテは、イタリア屈指のワインの銘醸地でもあります。トリノの南東に位置するランゲ&ロエーロ地方では尾根が複雑に絡まりあい、東西南北の斜面にはブドウ樹、平地にはヘーゼルナッツが整然と並び、世界でも類を見ないほどに美しい田園風景が望めます。そんなランゲ&ロエーロのみならず、イタリアを代表するワインのひとつが「バローロ」。バローロ村を中心にカスティリオーネ・ファレット、セッラルンガ・ダルバ、モンフォルテ・ダルバ、そしてラ・モッラの五つの村周辺の畑、バローロの丘に植えられた晩熟のネッビオーロから造られるバローロは、長い熟成を必要とする骨太で重厚な果実とタンニンを持つものから、鮮やかにも感じる芳香を早いうちから楽しめるタイプまで幅広く、ブルゴーニュと比較されるほど、バローロの丘の地質や環境は多様なワインを産み出します。「王のワインにして、ワインの王」ともいわれ、高級イタリアワインの重厚なイメージがあるかもしれませんが、下で紹介する「レヴェルディート」などラ・モッラ村周辺で造られるものは比較的軽やかでリーズナブルなものもあり、初めてバローロに親しまれる方にはおすすめです。
バローロの中だけでも、前述したいくつかのエリアでワインのキャラクターは違います。もちろん生産者によって畑を飛び地で所有していることもありますし、ブルゴーニュのように、より地域表示を明確にすることで“テロワール表現”というワインの最大の魅力を表現していくことができるように思います。
バローロを飲む機会があったならば、そのワインがどの地域で造られたものなのかを意識してみると、“王のワイン”もより身近なものになるのかもしれません。
Reverdito(レヴェルディート)
「Barolo2016(バローロ2016)」
5000円
輸入元=ミレニアムマーケティング
次のページで取り上げるのは、キャンティ・クラシコで知られる産地、トスカーナです。