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20年前から“丁寧な暮らし”を提案。『天然生活』編集長に聞く
贅沢でなくとも“豊か”である心がまえ

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パンデミックを経て、日々の暮らしを見直したり、家の中での時間や空間を充実させたりする人が増えました。衣食住にあらためて注目が集まるようになったといえるでしょう。

そんな“トレンド”に先立つように、20年も前から「暮らしを育むこと」をコンセプトにして、幅広い年齢層から支持を集めてきた雑誌が、『天然生活』とその別冊『暮らしのまんなか』。編集長を務める八幡眞梨子さんに、自分の暮らしを整えることの魅力や、雑誌の作り手、そして伝え手としての思いやこだわりを伺いました。聞き手は、ブックセラピストの元木忍さんです。

『天然生活』(扶桑社)
2004年創刊。毎月20日発売の月刊誌。手を動かすことを楽しみながら過ごす、シンプルでナチュラルな暮らしを大切にし、20年間一貫して提案してきた。写真は2024年2月号。
『暮らしのまんなか』(扶桑社)
『天然生活』の別冊として2005年に創刊。インテリアや家事を多く取り上げている。暮らしに「軸」をもつ人の住まいや暮らしに、インタビューと写真で迫る。6月・12月の年2回刊行。写真はVol.38。

暮らしを整えることは
自分を整えること

元木忍さん(以下、元木):いまでこそ、”豊かな暮らし”や”サステナブル”といった言葉が定着しましたが、『天然生活』や『暮らしのまんなか』が創刊された2004年から2005年の頃は、まだまだ知られていませんでしたよね。ようやく“時代が追いついた”ように感じています。八幡さんが感じる、両雑誌の魅力を教えてください。

八幡眞梨子さん(以下、八幡):ありがとうございます。もともと日本は資源に恵まれているとはいえない国でしたから、あるものを生かして工夫していく、手を動かして暮らしをつくっていくことで、豊かさを手に入れたように感じます。

元木:そうですね。

八幡:そういった日本ならではの事情と、両雑誌それぞれのテーマである「手を動かして暮らしをつくっていくこと(天然生活)」「暮らしの軸を丁寧に写すこと(暮らしのまんなか)」が私含め、読者にも自然と受け入れられたのかもしれません。

『天然生活』編集長を務める八幡眞梨子さん。

元木:まさに日本人のDNAにぴったりなテーマというわけですね。私も、家でぬか漬けをこしらえたり、梅酒を漬けてみたりしたことで、自分で暮らしをつくっている感覚、”生きる自信”のようなものがついた気がしますから。

八幡:それは素敵な暮らしぶりですね。私も、自宅の床材に国産の無垢材を貼ったり、壁紙を全部剥がして、ホタテ漆喰を塗ったり、DIYを楽しんでいます。高価なものはありませんけど、家の中を整えることは自分が整うことなので、興味がつきません。

元木:贅沢ではなくても、日々をおろそかにしないことが豊かさに繋がるのかもしれませんね。

八幡:そう思います。暮らしをおざなりにしないようにできるといいですね。家の中にひとつだけ、お気に入りの家具を取り入れる。植物を育てる。照明を変えてみる。味噌や梅など保存食をつくる。カーテンをつくってみる、など。そのための楽しい知恵やノウハウを、雑誌をとおして、伝えていきたいと思っているんです。

読者はもうひとりの編集部員
叱咤激励に真摯に向き合う

元木:読者たちの年齢層ですが、聞くところによると30代から60代と幅広いようですね。なかには20代もいるとか。世代を超えて多くの人の心をつかむ雑誌として、心がけていることはありますか?

今回のインタビュアーで、ブックセラピストの元木忍さん。

八幡:編集者として世の中の動きにアンテナを張るのは当たり前なのですが、それと同じくらい、読者の意見を大切にしています。(当初の発行元である地球丸が2019年に破綻し)発刊がままならなかったときもありましたが、『次号を待ち望んでいます』『ゆっくりでもいいから廃刊だけはしないで』と声を上げてくれ、復刊に向けて支えてくれたのは読者のみなさんでした。

元木:そのとき初めて、読者の声に触れたんですね。

八幡:はい。毎号、何かしらのテーマを決めて発刊するわけですが、今はわれわれ作り手の独りよがりにならないよう、読者の好きなこと、知りたいこと、求めていることを取り上げています。

元木:今は“雑誌が売れない時代”とされていますが、『天然生活』『暮らしのまんなか』は読者に寄り添った雑誌づくりを心がけているからこそ、支持され続けているわけですね。それにしても、次号を待ち望む声をいただけるのは編集者冥利に尽きますよね。

八幡:本当にありがたいことです。最近では、多いのが「見るとほっとするから、手仕事をもっとみたい」という声です。天然生活であれば、どの号も季節の仕事をちりばめるようにしたり、誌面のあしらいを工夫したりしています。

写真は、取材先の識者や現場の雰囲気が伝わるようなものを多く使います、と八幡さん。

元木:一方で、叱咤激励の声をいただくこともありますか?

八幡:はい。たとえば以前、収納アイテムとしてプラスチック製の容器を紹介したことがありました。これには、『丁寧な暮らしをテーマにする雑誌としてどうなのか』というお叱りの声を複数頂戴しました。読者のみなさんから学ぶことは多いですね。

元木:一方的に発信するのではなく、読者からも学び、寄り添う姿勢が伝わっているのでしょうね。

八幡:いつか、『天然生活』や『暮らしのまんなか』の世界観が体験できるような場所をつくり、読者のみなさんと直接触れ合える場をつくれたらと思っています。

八幡さんがいままで編集として携わったなかで、個人的にお気に入りという3冊。思い入れの深い『天然生活』復刊記念号。真ん中は毎年恒例の二十四節気七十二候が載るカレンダーが付録でついた2024年1月号。右端が『暮らしのまんなか』創刊号。

日本人として、編集者として
暮らしの知恵をつなげていきたい

元木:どの号を見ても新しい発見があります。長くやっていると内容を重複しないようにするのって大変なんじゃないかと思うんですが、気を付けていらっしゃることはありますか?

八幡:同じテーマでもその時代に合ったやり方に合わせていく。ちょっとずつアップデートしていく……そういったことでしょうか。たとえば梅干しの漬け方を紹介するにしても、20年前だったら塩の濃度は20%程度としょっぱいくらいが普通でしたが、最近は塩分を気にする方が多く、10%程度と控えめ。また梅酒ならブランデーを使う人も増えています。そんなちょっとした変化を敏感にとらえて、大切にしていますね。昔ながらの日本の伝統文化のベースは崩さず、時流にあった知恵を伝えていくのが役割だと思っています。それが文化の継承になったら、なおのことうれしいですね。

老舗雑誌を率いる一方で、プライベートでは新しいことへの挑戦にも積極的な八幡さん。最近になって一念発起、運転免許をとって中古車を購入しドライブを楽しんでいるそう。

元木:いまは何をするにも“便利”“時短”が当たり前。でも日本古来の知恵や良いモノを知る人が増えることで、丁寧に暮らしを紡いできた昔の日本に戻れるかもしれませんね。

八幡:そうですね。丁寧に作られた曲げわっぱの弁当箱など、美しいですよね。そういった日本の伝統工芸の良さについても、実際に使っている人の暮らしを見せることで、伝えられたらいいなと思います。

元木:時代の空気を読みつつ、今昔の日本の知恵やモノを紡ぐお仕事、素敵ですね。21年目も楽しみにしています! 今日はありがとうございました。

『天然生活』ウェブサイト

Profile

雑誌『天然生活』編集長 / 八幡眞梨子

料理の雑誌編集部や書籍編集を経て、2008年に『天然生活』編集部に配属。2018年より現職。当初の発行元である地球丸から現在の扶桑社に移籍後も変わらず、編集長を務めている。『暮らしのまんなか』では10号から20号の社内編集を担当したのち、現在は編集人。

ブックセラピスト / 元木 忍

学研ホールディングスからキャリアをスタート、常に出版流通の分野から本と向き合ってきたが、東日本大震災を契機に一念発起、退社。LIBRERIA(リブレリア)代表となり、企業コンサルティングやブックセラピストとしてのほか、食やマインドに関するアドバイスなども届けている。

文=染谷遥 撮影=鈴木謙介