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“ブレない自分軸”の育て方とは?日本での第一人者に学ぶ、
パリジェンヌの日課「バーオソル」

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美しく、心身ともに健康的な印象のあるフランス人。その秘訣は実は、「バーオソル」にあったーーーバレリーナとして16歳でパリに渡り、フランスの生活に慣れ親しんできたKANAMIさんは、著書『寝たままできる! パリジェンヌたちの体幹トレーニング KANAMI式バーオソル』で、本場で培ったバーオソルを日本人に合うように独自にアレンジし紹介しています。

この耳慣れない「バーオソル」のメソッドとは? KANAMIさんがバーオソルと出会って感じた自身の変化とともに、教えていただきました。聞き手は、バーオソルの考え方に共感したという、ブックセラピストの元木忍さんです。また、この記事の最後では、バーオソルを“体験”できる5つのトレーニングを解説していただきます。

『寝たままできる!パリジェンヌたちの体幹トレーニング KANAMI式バーオソル』(日本文芸社)
バーオソルとは「バーオソルクニアセフメソッド」のこと。バレエダンサーのために生まれたプログラムに、日本人の特性や抱える体の悩みに合わせてアレンジを加えたのが「KANAMI式バーオソル」です。本書では、ありのままが美しいフランス人女性のあり方を学びつつ、しっかりとした「体幹」と、しなやかな「柔軟性」を同時に叶えられる“身体矯正メソッド”も教えてくれます。

日本人が言う「ありのまま」の正体

元木忍さん(以下、元木):この本のなかに、美しさを表す一つの表現とし「ありのまま」というフレーズがあります。最近では、一種のキャッチフレーズとしてすっかり浸透しました。とはいえ実際のところは、ありのままの自分といいながらも、無意識に取り繕ったり、格好をつけるクセが残っていたり……。

KANAMIさん(以下、KANAMI):自分の内面も外見もまじまじと見たくない、知りたくないという声は、聞くことがありますね。知ってしまえば、改善しなければいけないことを本人も自覚しているからでしょう。いっそ、そんなことは気にしないで踊ったほうがストレスもない、という気持ちなのかもしれません。

バレリーナとして16歳でフランスへ留学してから、現地でフランス人女性の生き方、考え方を肌で感じてきたKANAMIさん。

元木:本当の自分を見るのが怖くて避けているような状態でしょうか?

KANAMI:そうはいっても、欠点に目を向けるのは、精神力も体力も必要になりますよね。それよりも、自分の心地よいと感じる瞬間、自分に合った体型をより良くすることに目を向けるのがバーオソル。フランスでバーオソルのレッスンへ通っていると、プロのバレリーナから一般の人まで、また子どもから70歳を超える人まで、細身の人から大柄な人まで幅広く、本当にどんなひとでも気軽に参加しています。そんな人たちが分け隔てなく1つの教室にいること自体、日本ではめずらしい感覚かもしれませんが、なかでも印象的だったのは、“他人を気にしない”こと。鏡張りのスタジオなのに、鏡も見ません。自分が感じる心地よさとか、自分にとってすてきな体型というのを高めたり見つけたり。まさに自分だけに集中。レッスンで体幹を鍛えつつ、自分軸も鍛えているイメージです。

元木:相対的ではなく、絶対的な自分らしさなるものを選び取る姿勢がうかがえますね。

著書より。若くてかわいらしいことだけが女性としての価値ではない、誰もが「自分軸」をもっているから流行に振り回されることは、ない___。フランス人女性は、私らしくあることに誇りと自信をもったうえで、互いのスタイルを尊重しています。

フランス人は「心と体をセットで整える」

元木:フランスでは、当たり前のトレーニング法なのですね。

KANAMI:そうなんです。もともと、クラシックバレエの基礎になる体幹トレーニングとして1950年代に生まれました。フランスにはバレエ文化が根付いているので、受け入れられやすい土台が備わっていたのだと思います。しかもバレエと違って、床に寝そべった状態でいつでもどこでもできるので、究極のメンテナンス方法として日常生活に取り入れられています。本にも書きましたが、フランスにはダイエットグッズも売っていないですし、日本のようにクイックマッサージ店が少ないこともあって、セルフケアの習慣があるようです。

元木:自分のことは自分でちゃんとケアする姿勢そのものがすてきですね。KANAMIさんは、いつからバーオソルを取り入れていますか?

KANAMI:バレリーナとして16歳でフランスに留学したときからです。当時はケガをしがちで、脚のラインにもコンプレックスを抱えていました。そんななか、縁あって受けたバーオソルのレッスンで、思うままに体が動いて踊れたことの衝撃といったら……。私に必要なのはこれだ! と感じました。

このインタビューの前に、バーオソルを実際に体験してみたというブックセラピストの元木忍さん。

元木:肉体的にも精神的にも楽になられたのですね。

KANAMI:とくに魅力を感じたところは、バーオソルの先生は“出来ないことをカウントしない”こと。バレエでは、脚が上がっていない、つま先が伸びていないなど、欠点を指摘されて改善していくことが多かったのですが、バーオソルでは、いいところをより良くすることに目を向けてくれている印象。レッスン中の声掛けも「大丈夫、できるわ、頑張って!」という感じで、まるで私への応援歌を歌ってくれるかのように、ずっと続くんです。ですから嫌な気持ちになることがない。続けるうちに、自分のココが好き! 私はこれが得意! というポイントも発見できたりして。今までに感じたことがない感覚でした。

元木:だから気軽に続けられて習慣になる、と。心と体の両方を無理なく鍛えられるわけですか?

KANAMI:はい、自分を変えたいけど、どんな方法も続かなかった……そんな人にこそ、試してほしいと思います。

目に見える効果……どんどんきれいになっていく

寝転がるスペースさえあればチャレンジできるバーオソル。手軽でありながら、続けることで心身ともに効果を実感できるといいます。

元木:実は、私の周りにもバーオソルを取り入れている女性がいます。ちょっと見ないうちに健康的で素敵になった彼女に「何かしているの?」と聞いて、バーオソルの名前が出たときはびっくりしました。

KANAMI:そうでしたか! うれしいです。バーオソルを続けていくと、もっと自分のことを大切にしてあげたいと思えるようになったり、自分にとって必要なものを選びとれる力が身に付いたりします。私の受講生の中にも、言葉遣いがポジティブに変わったり、無茶な食生活をしなくなったりと明らかに変化している人が多いですね。

元木:内面的な変化が、他人から見ても分かる形で現れるのはすごいことですね。外面的にはどんな変化がありますか?

KANAMI:まず、脚のラインが変わります。ひざ下のラインは少し時間がかかるのですが、より真っ直ぐになります。続けているうちに骨盤の角度から背骨のライン、頭の位置まで自然と軸が整うので、各パーツが本来あるべき位置に収まっていく感覚がわかるはず。前も後ろも美しい姿になるだけでなく、肩こりや腰痛といった体の不調からも解放されます。

元木:すべてのダンスの基礎ともいわれるクラシックバレエの体幹トレーニングは、さすがの威力ですね。体の軸、心の軸を両方整えることが本人の自信にも繋がるのでしょうか?

KANAMI:そうですね、心と体はリンクしているのでセットで鍛えるのが効果的です。ゆっくりと柔軟性のある筋肉が育てば、考え方にも余裕が生まれるといった具合に、どんどん進化して強くしなやかな人間になっていきます。

ずっと健康で楽しく暮らすため、未来の自分に投資する

元木:日本の社会問題として、「平均寿命は上がっているものの健康寿命は落ちていて、寝たきりも増えている」という現状があります。美しさも手に入れつつ、楽しく暮らすためには健康第一。それぞれが本気で、体のことを考えなければいけませんね。

日本人は未来の自分の体について無頓着すぎる……? 危機感を感じているという元木さんに響いたのは、「(パリジェンヌたちは、)今、何をすることが、少し先の未来の自分のためになるかを知っているから」という言葉。

KANAMI:その点、フランス人は、定年後に思いっきり遊ぶためにもセルフケアは怠りません。65歳以降にいかに元気な体でいられるかに、すごく投資しています。それが苦痛ではなくて、当たり前のことなのですね。

元木:働いたあとも人生を楽しむぞ! っていう考え方ですね。

KANAMI:エステやマッサージはプロに任せておけばきれいにしてくれますが、筋肉だけは、自分で頑張らないと失われてしまいます。バーオソルを通じて自分を見つめるなかで、未来の自分も楽しくありたいと願ったら、自然と習慣化されるはず。一度育てた筋肉は長持ちするので、メンタルの筋肉だってちょっとやそっとのことでは落ちません! いくつになっても美しく、健康的に暮らすためにも、毎日の積み重ねが大切です。

KANAMIさんがプチレッスン!
バーオソルの代表的エクササイズ5

KANAMIさんに、簡単そうに見えて意外と筋肉に喝を入れるような、効果絶大なポーズを5つ教えていただきました。自宅ですぐ試せます。

■ アチチュードバランス

足で長めのひし形を作り、背中を引き上げながらつま先を床から浮かします。背中ともも裏が張り合うようなイメージで行うのがポイント。
効果=体幹、背面強化

■ ツイスト

息を吐きながら上体と脚を交互に変えていき、背中をキープしながらウエストからしっかりとツイストしていきます。左右の膝とつま先を引っ張り合うようなイメージで、なるべく背中が落ちないようにツイストするのがポイント。
効果=ウエストシェイプ、美脚

■ パッセ

頭のてっぺんから足先まで長く伸びるような感覚でキープします。反り腰にならないよう伸ばす足は骨盤よりも少し前に置きましょう。軸側の肋骨を床から少し浮かすことで体側が鍛えられます。
効果=体幹、内ももシェイプ

■ プリエアップ&ダウン

両脚を揃えて軽く膝を曲げ、膝を外に開いてひし形を作ります。足を上げるよりも前ももを床から離すような感覚で。脚でひし形を作り、カタチをキープしたままアップダウンするのがポイントです。
効果=内もも&背面強化、ヒップアップ

■ ラビオン

フランス語で飛行機を意味する名称のポーズ。足は腰幅に開きお尻の下を中心に集めながら踵を少し内側に向けます。膝を伸ばした状態で足を上げていきます。余裕があったら腕もつけてみましょう。反り腰にならないよう上体はあまり起こさず、腰ではなくお尻の力で足を上げられるよう意識をしてみましょう。
効果=美脚と背中シェイプ

バーオソルはただの体幹トレーニングではなく、心と体を整えてブレない自分軸までも育ててくれるもの。いま、メンタルにもフィジカルにも不安や不満がある人は、本来の自分を取り戻すきっかけになり、美しくしなやかなあり方に近づけるかもしれません。

Profile

バレエダンサー・舞台演出家 / KANAMI

バーオソルクニアセフメソッドトレーナー、株式会社Star Wisteria代表取締役。16歳よりフランス・カンヌ・ロゼラハイタワー・バレエ学校に留学。留学中にバーオソルクニアセフメソッドと出会い、創始者ボリス・クニアセフ氏の愛弟子であるジャクリーン氏より直接指導を受ける。モスクワ国立ボリショイバレエ学校卒業。以後、数々の欧州のバレエ団を経て、帰国。2020年1月、南青山に自身のパーソナルトレーニングスタジオをOPEN。パーソナル&グループまで数多くのクラスを受け持ちながら、テレビや雑誌などでも活躍中。現在は定期的にパリで学びながら、ヨーロッパやアメリカでもアスリートやダンサーのサポート、またワークショップを開催するなど、美容や健康までトータルでプロデュースする。
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ブックセラピスト / 元木 忍

学研ホールディングス、楽天ブックス、カルチュア・コンビニエンス・クラブに在籍し、常に本と向き合ってきたが、2011年3月11日の東日本大震災を契機に「ココロとカラダを整えることが今の自分がやりたいことだ」と一念発起。退社してLIBRERIA(リブレリア)代表となり、企業コンサルティングやブックセラピストとしてのほか、食やマインドに関するアドバイスなども届けている。本の選書は主に、ココロに訊く本や知の基盤になる本がモットー。

※「バーオソルクニアセフメソッド」は株式会社Star Wisteriaの登録商標です。

文=染谷遥 撮影=鈴木謙介