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ミシュラン選出のパエリア専門店に学ぶ。スペインバルの
料理とワインの組み合わせ

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ひとりでふらっと立ち寄って、ワイン1杯と数品のおつまみだけを楽しんで帰ってもいい。空腹ならしっかりと、また大人数ならボトルワインをみんなで空けながらワイワイと。そんな“使い勝手の良い店”を一軒知っているだけで、ワインライフはぐっと楽しくなります。

東京・中目黒の「バル ポルティージョ デ サルイアモール」は、“小さな扉”という名のスペインバル。その扉の向こうには、昔憧れたお洒落なオトナたちのワインシーンが広がっています。

 

“ビブグルマン”に選ばれる店が
目指すのは“日常のなかの外食”

「僕自身、外食が大好きなんですよ。ラグジュアリーなご褒美の外食じゃなくて、日常に溶け込むくらいしょっちゅう行ける外食(笑)。一人でも恋人とでも、子連れで家族とでも行ける店というのが、僕にとってちょうどいいレストランのかたちです」。そう語るのは、オーナーのビクトル・ガルシアさん。

代官山「サルイアモール」、銀座「ラパンサ」に続き、2019年5月にオープンしたこの「バル ポルティージョ デ サルイアモール」の、計3店舗のスペイン料理店を経営。『ミシュランガイド東京』において「5000円以下で優れた料理と価格以上の満足感を得られる店」に与えられる「ビブグルマン」に、「サルイアモール」は2020年まで5年連続、「ラパンサ」は2年連続選出されている、プロにも認められた人気店です。

バル ポルティージョ デ サルイアモールのオーナー、ビクトル・ガルシアさん。
バル ポルティージョ デ サルイアモールのオーナー、ビクトル・ガルシアさん。

「サルイアモール」は、日本初のスペイン米料理専門店『アロセリア』として2012年にオープンし、看板料理はもちろんパエリア。その「サルイアモール」より少しカジュアルなスペイン料理への“扉”が、「バル ポルティージョ デ サルイアモール」なのです。

メニューに載る料理は、一皿300円のタパスからミシュランも認めた本格的なパエリアまで、その種類と品数は膨大。ワインリストも常時60種類ほどのワインが用意され、グラスワインも赤・白・ロゼを合わせて10種類前後。シェリーも3種をグラスで楽しむことができ、スペイン語のラジオ放送が流れる店内は、まるで本場スペインの田舎町のバルに迷い込んだかのよう。

「頼み方にルールはありません。昼12時に1名でワイン1杯と数品でも、夜21時に仲間と2軒目利用として来て、ボトル1本とパエリアだけをシェアしても。コース料理ではないので、ワインの選び方にもルールはありません」(ビクトル・ガルシアさん、以下同)

ビクトルさんは、スペイン人の父と日本人の母との間に生まれました。幼い頃の食卓には、母が台所に立つときは和食、父が腕をふるうときにはスペイン料理。傍らには常にワインやオリーブオイル、チーズが用意されていたと言います。

そんなスペインと日本のふたつの食文化で育ち、精通するビクトルさんが、日本人も愛して止まない“米”の専門店を謳うスペインバルを経営するのはなぜか。その思いをさらに詳しく、おすすめの料理とワインを紹介していただきながら伺いました。

まずはどんなスペイン料理にも合う
守備範囲の広いワイン

「お客様の大半は、シメにパエリアなどの米料理を注文します。スペインには具材が肉のパエリアはたくさんありますが、多くの日本人のイメージでは、パエリアの具材は魚介類ですよね。そうなると合わせるワインは、食事の最後にも関わらず、白やロゼなど軽めのものになりがちです。でも逆に『重めの赤ワインで締めなければならない』という考えは、“ワインが嗜好品”である日本ならではのことで、“ワインが水代わり”のスペインでは、順番など関係なくただひたすら“好きなワイン”もしくは“地元のワイン”を、最初から最後まで飲むことが多いんですよ」

好きなワインにルールなし。とはいえ、どんな料理にも柔軟に合わせてくれる守備範囲の広いワインを知っておきたいところです。その選び方を、人気のタパス「鱈(たら)のグラティナード」とともに紹介してくれました。

ほど良く塩気のきいた鱈の味わいに、ワインが進む。
ほど良く塩気のきいた鱈の味わいに、ワインが進む。

選んだのは、ほんのりと樽の効いたビウラという品種の香りが美しいリオハ産の白ワイン。

「イサディ ブランコ」は、白い花やハーブ、ほのかな樽の香りも感じられる、ミディアボディの白ワイン。
「イサディ ブランコ」は、白い花やハーブ、ほのかな樽の香りも感じられる、ミディアボディの白ワイン。

「味付けもさまざまなタパス数品と幅広く合わせる白ワインなら、重視するのは果実味です。果実味とアロマに富んでいて、ある程度のコクやふくよかさのあるものがおすすめですね」

鱈の上に甘く炒めた玉ねぎと、アリオリというにんにくマヨネーズソースを塗ってオーブンで焼いた、グラティナードのコクと香ばしさが、ワインのかすかに香る樽のニュアンスとよく合っています。

 

スペイン料理と和食の間にある
意外な共通点とは

コースでなく、さまざまな味のタパスをあれこれつまみ、シメに米料理のパエリアをワインと楽しむスペインの食文化。これを思えば、米を主食に数品のおかずを食べる和食にも、ワインが合わないということはなさそうです。ビクトルさんは、スペイン流の味付けと和食の共通点について教えてくれました。

「うちのお店の料理は、お客様から『懐かしい味!』ってよく言われるんですよ。オリーブオイルやにんにくを使うのはイタリア料理やフランス料理にも共通しますが、日本人にとってスペイン料理独特の懐かしさは『シェリービネガー』と『パプリカパウダー』だと思うんです」

シェリービネガーは米酢を、さらにシェリー系の旨味は醤油の熟成感を、そしてパプリカパウダーは燻製にしたものが多くその香りが鰹節を彷彿とさせるのだと言います。

そして紹介してくれた2品目は「ピキージョピーマンの詰め物」。ピキージョピーマンも、パプリカの一種です。

ピーマン特有の青さもまた、テンプラニーリョのほど良いタンニンと相性がいい。
ピーマン特有の青さもまた、テンプラニーリョのほど良いタンニンと相性がいい。

「合わせたワインは、リオハ産の赤ワイン。スペインの代表的な品種『テンプラニーリョ』が主体ですが、比較的軽やかな味わいです。守備範囲の広い白ワインはコクやふくよかさを重視ますが、赤ワインはどちらかというと上品で強すぎない味わいが良いと思います」

「ファウスティノ 7世」は、フレッシュな果実味でバランスの取れた飲みやすい赤ワイン。
「ファウスティノ 7世」は、フレッシュな果実味でバランスの取れた飲みやすい赤ワイン。

また、ビクトルさんが料理に合わせるワインを選ぶとき、その料理を“どれくらい噛むか”という口内の滞在時間も考慮に入れるのだとか。この「ピキージョピーマンの詰め物」は、柔らかく煮込んだ牛ほほ肉と、ポルチーニ茸の香るホワイトソース、そしてパプリカパウダーを効かせて炒めた玉ねぎが詰められていますが、口に入れた瞬間にほどけ、数回の咀嚼で飲みこめるほど柔らかな食感。このような料理の場合は、ワインは軽めに。ワインが強すぎたり渋すぎたりすると、後味がずっとワインだけに支配されてしまうのだと言います。

フォークナイフを使わず箸でつまめる大きさで、また箸で切れるような柔らかさの食材を食べることに慣れ親しんだ日本の食卓。これに合わせるワインも、ビクトルさんの視点にヒントがあるように思いました。

 

お米とワインで繋がる食卓の一体感

いよいよ最後に、パエリアの登場。数あるパエリアメニューのなかから、肉と魚介類が両方楽しめる「ミックスパエリア」を用意してくれました。鰹節を彷彿とさせるという、パプリカ系の出汁と魚介類の出汁、さらに鶏のブイヨンを半々で使用することによって、肉と魚、両方の出汁を吸ったお米の、噛めば噛むほどに感じる旨味を楽しむことができます。

出汁を思わせる具材の旨味はもちろん、鍋底の”おこげ”も、日本人にとっては懐かしささえ感じるお馴染みの味。おこげの香ばしさも、シェリーとの相性抜群。
出汁を思わせる具材の旨味はもちろん、鍋底の”おこげ”も、日本人にとっては懐かしささえ感じるお馴染みの味。おこげの香ばしさも、シェリーとの相性抜群。

そんな旨味の塊であるミックスパエリアに合わせたワインは、「アモンティリャード」という種類のシェリー酒。通常のワインよりもアルコール度数が高めなシェリーを選ぶのは、一見ハードルが高いように思いますが、ビクトルさんによると、旨味や熟成感に富むシェリーほど、料理に合わせるのに万能なお酒はないのだそう。

「イダルゴ アモンティリャード」は、まろやかなこくと旨味を感じる、料理に合わせやすい味わいのシェリー。
「イダルゴ アモンティリャード」は、まろやかなこくと旨味を感じる、料理に合わせやすい味わいのシェリー。

「肉類と魚介類をひとつの料理にするという発想は、寄せ鍋のような感覚もありますね。旨味たっぷりの鍋の残りに米を入れて雑炊にするなんていう発想は、まさにパエリアです」

パエリアを少人数で食べたいという要望もあるなか、ビクトルさんは、あくまでも3〜4人前の大きなパエリア鍋で提供することにこだわりたいと、力を込めます。

「大皿のパエリアには、レストラン全体の空気を一瞬で高揚させる、そんな魔法の力があると思います。『同じ釜の飯』という言葉をもつ日本人にとっても懐かしさを感じる、大人数でシェアする楽しさや一体感は、僕にとってスペイン料理の本質なのです」

バスク地方で日常的に飲まれるワイン「チャコリ」を注ぐ、“エスカンシアール”という動作に、思わず歓声が上がる。にぎやかに卓を囲み、気負わず楽しむ、同店の雰囲気にぴったり。
バスク地方で日常的に飲まれるワイン「チャコリ」を注ぐ、“エスカンシアール”という動作に、思わず歓声が上がる。にぎやかに卓を囲み、気負わず楽しむ、同店の雰囲気にぴったり。

コース仕立てで少量ずつ、さらに低アルコールやノンアルコールペアリングなども時代のキーワードですが、大皿を囲んで取り分ける高揚感と、少し強めのアルコールも時には人と人との距離を縮め、場の雰囲気を陽気なものにしてくれます。そんな食事本来の楽しさを体験しに、「小さな扉」をくぐってみてはいかがでしょうか。

Restaurant Data

20200214_atliving_spanishbar_shop

Bar Portillo de“sal y amor”(バル ポルティージョ デ サルイアモール)

所在地=東京都目黒区青葉台1-19-10 エスセナーリオ青葉台103
Tel=03-6455-2536
営業時間=ランチ:12:00~15:45(L.O 14:45)/土日祝12:00~15:45(L.O 14:45)、ディナー:17:30~23:30(L.O 22:30)/土日祝17:00~23:00(L.O 22:00)
定休日:第3月曜
http://bar-portillo.com/

 

取材・文=山田マミ 写真=中田 悟