5. ビオビオ・ヴァレー
− チリの南部は大手も進出する新しい産地 −
南半球に位置し、南北に長いチリは北にアタカマ砂漠、南にはパタゴニア氷原と、多様な気候風土を持った国であることはすでにお伝えしたとおりです。首都サンティアゴを中心にワイン生産が始まったことから、南北両端はワイン生産にそれほど積極的な地域ではありませんでした。南のイタタ・ヴァレーは歴史こそ長い地域ですが、主に国内消費向けのパイスやモスカテルが植えられてきました。けれどもチリワインの需要が国際的に高まるなかで、大手生産者を中心に、これまで傍流でしかなかった南の産地でも秀逸なワインが続々と生み出されています。
写真の「コノスル」は、日本でもスーパーマーケットに行けば必ずと言っていいほど棚に並んでいるブランド。コンセプトがとてもユニークで、「no family tree, no dusty bottle, just quality wine」を掲げている1993年設立の若いワイナリーですが、チリワインの輸出量ではトップ3に入るビッグブランドでもあります。伝統や歴史はなく、あるのは品質の高いワインのみというコンセプトの通り、コノスルの存在は今まで家庭消費が極端に少なかった日本の消費動向すら変えてしまいました。つまり、チリワインのリーズナブルで美味しいというイメージを日本人に植え付けたのは、コノスルの影響によるところが大きかったと考えられます。
とはいえ、コノスルも1000円以下のワインだけを造っているわけではなく、チリのグランクリュ、プエンテ・アルトのカベルネ・ソーヴィニヨンから”シレンシオ“というプレミアムワインまで造っています。そして魅力的なのがチリのさまざまな地域でブドウ栽培を進めるコノスルのシングルヴィンヤード・シリーズ。適地適品種を探る中で、冷涼なビオビオ・ヴァレーでリースリングまで成功させているのです。そしてもちろんリーズナブル。ほんの少しの贅沢というときに、コノスルの安定感はどこまでも安心させられます。
Conosur(コノスル)
「Single Vineyard Riesling2019(シングル・ヴィンヤード・リースリング2019)」
実勢価格2000円前後
Profile
ソムリエ / 宮地英典(みやじえいすけ)
カウンターイタリアンの名店shibuya-bedの立ち上げからシェフソムリエを務め、退職後にワイン専門の販売会社、ワインコミュニケイトを設立。2019年にイタリアンレストランenoteca miyajiを開店。
https://enoteca.wine-communicate.com/
https://www.facebook.com/enotecamiyaji/
撮影=真名子