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自己満足から“誰かがうれしい”ものづくりへ。バルミューダの「もの・こと・時間」のつくり方

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自然界の風を再現する扇風機「The GreenFan」や、最高の香りと食感を実現するトースター「BALMUDA The Toaster」など、斬新なアイデアでヒット商品を生み出しているバルミューダ。創業者である寺尾 玄さんは、なんと元ミュージシャンという異色のキャリアの持ち主です。

ロックスターの夢を諦めた、家電にはまったくの素人が事業を起こし、度重なる倒産の危機を乗り越え、導き出した経営哲学。現在バルミューダが掲げる「ものより体験」というポリシーは、どのように形成していったのでしょうか? 製品の開発エピソードを振り返りながら、ヒットの裏に隠された「寺尾 玄の理念」に迫ります。

そこから見えてきたのは、この時代を生き抜くためのヒントでした。

 

値段が高いから売れないんじゃない。
人々に必要とされるものを作らないから売れないんだ

——バルミューダは、パソコンの周辺機器から扇風機、トースターやレンジと、これまでいろいろな商品を発売してきました。それに合わせて、ものづくりのポリシーも変わってきたのでしょうか?

寺尾 玄社長(以下、寺尾):はい、変わってきました。創業時と同じポリシーでやっていたら、現在のバルミューダはなかったと思っています。振り返ってみると、大きく3つの段階がありました。ひとつ目は創業時。自分が欲しいと思う、カッコイイものを作ることしか考えていなかった時代です。そんな考えで商品を作っても、人々に受け入れてもらえるはずがないですよね。でも当時の私は、売れない理由を価格のせいにしたり、お客さんのせいにしていました。リーマンショックの影響が残っていた2009年、私を含めて3人の会社で、年商が4500万円、決算が1400万円の赤字で借金が3000万円。そして、注文は1か月間で1件もこない……。これで終わったと思いました。結局、会社が倒産寸前になるまで、ビジネスで最も重要なことに気が付けなかったんですね。

2003年発売の「X-Base」(実売価格3万7584円〜)。アルミから削り出して作られた、ノートPCの冷却台。温度差によって生じる空気の対流を利用し、平均してマイナス7℃という高い冷却性能を確保した
2008年発売のLEDデスクライト「Airline」(実売価格8万6400円)。スプリングとウエイトを内蔵したハイブリッドバランス機構によって、ユーザーによってちょうどいい位置へ、静かに軽く動きぴたりと止まる。アルミ中空構造によるソリッドなデザイン。鏡面仕上げされたホワイトとブラックの2色

 

——それは、どういう気付きだったんでしょうか?

寺尾:会社から自宅への帰り道にファミリーレストランの前を通るんですが、世の中は未曾有の金融危機で自分の会社は潰れそうになっているのに、店内ではお客さんが楽しそうに食事をしているんです。その姿を見たときに、はっきりとわかったんです。商品が高いから売れないんじゃない、人々に必要とされるものを作ってこなかったから売れないんだ、と。もう少し早く気が付けばよかったんですが、タイムマシーンは持っていませんからね。まだ会社が存続しているうちに、人の役に立つものを作って、結果ダメでも前に倒れようと思いました。そんな想いで無心になって開発に取り掛かったのが、「GreenFan」(現在「The GreenFan」)という扇風機でした。

2010年に登場し、バルミューダのブレイクスルーとなった商品が、扇風機「GreenFan」。羽根の構造をイチから見直し、“扇風機の風に直接当たると不快”というイメージを根底から覆した。DCモーターにより消費電力を極限まで抑えられ、2011年の東日本大震災を契機に高まった節電需要にも応え、さらに注目を浴びることとなった。最新モデルは「The GreenFan」(実売価格3万8860円)
最大の特徴は、二重構造の羽根。羽根を内周と外周で分割することで、速度の速い風と遅い風を同時に作り出し、元々の風がもつ渦を打ち消すことに成功。これによって“自然界の風”を再現した

 

本当はものが欲しいのではなく、
使ったときの経験や体験が欲しいんじゃないか

——2010年に発売された「GreenFan」は、普通の扇風機の10倍もする高価格で驚きました。ところが、自然の風を再現する新しい扇風機として、大ヒットしましたね。

寺尾:人に必要とされるものが作れたんだなと思いました。その後、サーキュレーターや空気清浄機などの空調家電でラインナップを広げていくんですが、実はもう一度危機に陥るんです。

——なぜですか?

寺尾:今度は、多すぎる在庫です(苦笑)。「GreenFan」が評価されたので、作れば売れると思ってしまいました。でも扇風機が売れるのは、夏の3か月間だけなんです。例えば、ひと夏で5万台くらいの販売計画を立てるとします。売れ行きを読み間違えると、1万台くらい在庫になってしまう。これらが売れるのは次の年です。つまり、数億円分が倉庫で1年も眠ることになるんです。夏の商品も冬の商品も、季節家電はすべて同じ。在庫を持つことは、恐ろしいほどの事業インパクトになるんです。実際に倉庫まで足を運んで、自分の目で在庫の山を見たとき、“ものを売ろう”と思っていた根性が間違っていたと気付きました。

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——“ものを売る”ことが間違っていた、と? では何を売るんですか?

寺尾:例えば30万円の時計を買ったとします。980円で売ってるキャラクター時計でも機能は同じなのに、なぜ人は高価な時計が欲しくなるのか? それは所有する歓びであったり、他人から見られる自分の品質にお金を出しているわけですよね。人はたくさんものを買いますが、本当はものが欲しいのではなく、使ったときの経験や体験が欲しいんじゃないかと、自分なりの仮説を立てたんです。
「ものより体験」。この仮説をもとに開発した商品が、「BALMUDA The Toaster」でした。このトースターは、デザインも音も焼き具合の制御もすべて、パンを口に入れる瞬間のために作ったんです。つまり、体験のためだけ。お客さんが「BALMUDA The Toaster」を使って食べるトーストの素晴らしさを作っているんだという想いで商品を作ったら、すごく上手くいきました。現在も「ものより体験」というポリシーで商品企画をしていますし、今のところそれが上手くいってるんだと思います。

バルミューダが初のキッチン家電として発売し2度目のブレイクスルーをもたらした「BALMUDA The Toaster」(実売価格2万4732円)。最初に注入する5ccの水が焼き始めにパンを蒸気で包み込み、焼き上がりまで細かく温度制御を行うことで、中はふわふわ外はカリッとおいしさが閉じ込められたトーストを焼ける。同製品の大ヒットは、大手家電メーカーが次々と高級トースターを発売するムーヴメントを作り出した

——その「BALMUDA The Toaster」は2015年に発売されましたが、今までにどれくらい売れているんですか?

寺尾:発売から2年半経っていますが、売れ行きは30万台を超え、2017年11月には過去最高のセールスを更新しました。今月(2017年12月取材時)はそれをさらに上回る勢いです。仮説が当たっていたという感覚を、強く抱かせる結果だと思います。でも私は、少し違和感も感じているんですよ。

——右肩上がりで順調に売れている商品なのに、ですか?

寺尾:個人的にはここまで売れると思っていなかったので、現状とのギャップを感じているんです。でもこの“違和感”こそが重要なポイントです。少しでも違和感を感じたとき、自分の予想と違ったときは、徹底的にその理由を考えるようにしています。それは、不調のときも好調のときも同じ。だから予想を上回る販売なら、なぜだ? と徹底的に考え、それを次に生かしていきます。思ってもないことが起こるのが人生ですし、そのときが考えどき。私は少なくともひとつの仮説を立てて、次に行動するときはその仮説を信じて行動します。これを繰り返してきたので、以前と比べると失敗することが減りましたね。以前と比べると、ですけど(笑)

——失敗を回避するための心掛けですね。

寺尾:そうです。でも、失敗を避けるために挑戦をしないという考え方は間違っています。挑戦して失敗するのは、とても大事なことですから。私も失敗は大嫌いだし、したくないことナンバー1です。でも失敗という経験がないと、よりよい自分になれないんですね。失敗は最良の学びの場ですから。

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そして寺尾社長の話は、話題の新製品「BALMUDA The Range」のこと、さらにメーカーはどうあるべきか? “働く”とは? という話へと展開していきます。