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本当においしい海苔を選んでますか?日本の伝統食材「海苔」の
意外に知らない話

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海苔の主要な産地はどこ?

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海苔と聞いて、多くの人が真っ先に思い浮かべるのは有明海苔でしょうか。それ以外にも日本では、北は宮城から南は鹿児島まで、全国各地で海苔を生産しています。

「海苔は、10℃以上18℃以下の水温の中で育ち、適温は大体11〜13℃です。穏やかで遠浅な海であること、大きな河川があり海苔が育つのに必要な栄養が運ばれてくること、潮の流れによって適度な水の入れ替わりがあることが、海苔の生育に必要な条件。つまり、日本の風土は海苔の栽培に適しているのです」

せっかくなので、特に生産量の多い産地を海苔の特徴とともに教えてもらいました。

海苔の産地とその特徴

・松島湾産
色が濃く、しっかりとした歯応えがある。

・東京湾産(千葉県)、伊勢湾(三重県、愛知県)
草芽がしっかりしており、味が濃く比較的香りが強い。

・瀬戸内海産
松島湾産と特徴が似ており、色が濃くしっかりとした歯応えがある。

・有明海産
焼く前の状態で若干赤みが強い。甘味が強く歯切れが良い。

「おにぎりなどに巻いてすぐ食べるのであれば、有明産など歯切れ良く柔らかいタイプがオススメ。おにぎりなどに巻いて時間をおいてから食べるときは、海苔の硬さはさほど気にならなくなります。ですので、松島湾や瀬戸内海産の色が濃いものを使うと、時間が経っても美しい見た目を楽しめます。ただ、どの地域でも柔らかい海苔を味わえる旬の時期があるので、あくまでこれらの特徴は傾向に過ぎず、購入する時期によって特徴は若干異なってきます」

また、斉藤さんによると海苔の厚みと歯切れの良さには相関関係はないとのこと。

海苔の歯切れは厚みではなく、使われている海苔の草質によって決まります。なぜなら新芽を使えば口溶けの良い物になりますが、何度も刈り取ったあとの部分で作れば口の中にゴワゴワと残る食感になります。ですので厚みではなく、どんな草質の海苔を使って成型されたかで食感が決まるのです。もちろん同じ柔らかい海苔で作るなら、厚みがある方が味は濃くなりますよ」

 

産地以外にはどんな違いがある?

海苔とひと口にいっても価格はピンキリ。500円以下で買えるものもあれば数千円するものもあります。その違いはいったい何なのでしょう?

「等級検査で付けられたランクによって価格は決まります。ただ、等級の基準や名前は地域によって異なり、統一されていません。場所によっては100種類以上もの等級があることも。また、パッケージに等級が書かれていないことのほうが多いです。

ただ、総じて言えるのは、色が濃く、ツヤがあって曇りがないものほど品格があるとして価格が高くなるということ。海苔のおいしさは、如実に価格に比例します。手巻きで使うのであれば600円以上のものを買っていただくと柔らかく歯切れの良いものが手に入ると思います。また、中身が見えるパッケージに入っている海苔あれば色が濃いかどうかを見てみてください。極端に価格が低いものは鶯色のような色をしています」

斉藤さんが営む「中川海苔店」には、現在(2022年3月6日時点)千葉県産の「重重特」(右/2000円)という肉厚の海苔が並んでいます。
斉藤さんが営む「中川海苔店」には、現在(2022年3月6日時点)千葉県産の「重重特」(右/2000円)という肉厚の海苔が並んでいます。

「海苔との出会いは一期一会。いまは『令和3海苔年度 第一回 富津 重重特』が並んでいますが、来シーズンは何が並ぶかわかりません。自然が作るものなので、常に同じものが手に入るとは限らないからです。また、スーパーなどに並ぶ海苔に等級が書かれていないのは、このためでもあります」

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おいしい海苔を見極めるうえでもっともわかりやすい目印に「初摘み」や「一番摘み」があります。

「『初摘み』も『一番摘み』も意味は同じ。海に張った網から最初に摘採した新芽で作られた海苔のことです。新茶や一番茶と同じですね。大体11月ごろから市場に出回るのですが、生産量が少なく価格は高め。そのぶん柔らかくて、香り高い風味を楽しめるとして人気です。そのままはもちろん、巻いてすぐ食べるならおにぎりなどにもオススメですよ」

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「また、貴重という意味では『青まぜ』という海苔もあります。これは青海苔が混ざった海苔のことで、まだ水温が少し高い秋と春に向かうわずかな期間にしか採れません。香りが特徴的で好みは分かれますが、青まぜしか食べないと言う人もいるほど、ハマる人はハマる海苔です」

 

1mm以下の薄さでも栄養はたっぷり!

10枚(全型)食べても60kcal前後と低カロリー。さらには紙のような薄さ。正直海苔はお腹が膨れるとは言い難い食材ですが、実は1枚に26種類もの栄養成分を含まれています。どのような栄養を摂れるのでしょうか?

「海苔は『海の緑黄色野菜』とも呼ばれる食材です。大別するとタンパク質、ミネラル、ビタミン、食物繊維が含まれています」

海苔に含まれる栄養成分

・タンパク質

海苔の約40%はタンパク質。タンパク質を構成するアミノ酸が海苔のうまみを生み出しています。そして「うまみ成分」は、一般的に昆布に含まれるグルタミン酸、かつお節に含まれるイノシン酸、しいたけに含まれるグアニル酸の3つに分けられますが、海苔には3種類すべてのうまみ成分が入っていて、 3種すべてが入っている自然食品は海苔だけと言われています。

・ミネラル

ミネラルにはカリウムやナトリウム、鉄、亜鉛などさまざまな種類がありますが、海苔にはそのほとんどが含まれています。とくにカルシウム、亜鉛、ヨウ素、鉄が他の食品よりも豊富です。

・ビタミン

海苔には11種類のビタミンが含まれています。なかでも葉酸の量はすべての食品のなかでもトップクラス。また、海苔に含まれているビタミンB2には、ごはんを効率良くエネルギーに変える働きがあるので、おにぎりに海苔を巻くのは理に適っています。

・食物繊維

海苔の約3分の1は食物繊維でできています。食物繊維には水溶性のものと非水溶性のものがありますが、海苔に含まれるのは水溶性。そのため野菜の食物繊維よりも、穏やかに体内の不要なものを体外に排出できます。

 

湿気を含んだ海苔はうまみの抜け殻!?
市販のチャック付き袋での保存はNGだった

紹介した以外にも、海苔にはEPAやタウリンなどさまざまな栄養素が含まれていて、栄養面を考えると、全型の焼き海苔を1日に2枚食べるのがオススメなのだそう。せっかくなので、よりおいしく食べるために正しい保存方法を教えていただきました。

「多くの方がご存知かとは思いますが、海苔にとって湿気は大敵です。海苔には赤、青、緑、黄色の4つの色素があるんですが、これらはうまみ成分でもあります。先ほど色が濃いほど質が高いと言ったのはこのためで、色が濃いものほどうまみ成分がしっかりあるということなんです。そして、そのなかで緑色と黄色のうまみ成分は水分に弱く、湿気ると失われてしまいます。結果、赤と青の色素だけが残るので、湿気った海苔は紫色に見えるんですよ。うまみの抜け殻のような状態ですね」

パリパリ食感だけでなくうまみを味わうためにも湿気が大敵ということはわかりました。では、湿気を防ぐにはどのような保存方法が最適なのでしょう?

海苔を市販のチャック付き袋に移す方がいますが、あれはNG。チャック付き袋の大半はポリエチレン(PE)で作られており、切断面には目に見えない小さな穴がたくさん空いています。分子が大きい水は通りませんが、水蒸気は通ってしまうんです。元々の海苔の袋にチャックが付いているならその袋のまま保管するのがベスト。もし、チャックがなければキャニスターやフードコンテナなど密閉式容器に移し、海苔の袋に入っていた乾燥剤を入れましょう。ちなみに容器は横長で開口部の大きい物よりも縦長のものがオススメです。フタを開けると湿気のある外気と乾いた中の空気が入れ替わるのですが、入口が狭いほうが、入れ替わる量が少なくて済むからです。食べるときは一枚取り出したらすぐにフタを閉めるようにしてくださいね」

「海苔で健康推進委員会」が開発した「2本指で開けられる四切サイズ海苔の密閉保存容器密閉保存容器」(税込660円)
「海苔で健康推進委員会」が開発した「2本指で開けられる四切サイズ海苔の密閉保存容器密閉保存容器」(税込660円)

「容器は食卓など目につく場所に常に置いておくのがオススメです。目につく場所においしいものが置いてあれば、自然と手が伸びますよね。どこかにしまい込んでしまうと食べ忘れ、気がつけば湿気っていた……なんていうことに。海苔をもっともおいしく食べる方法は、開封したらできるだけ早く食べきること。それに尽きます」

海苔を冷蔵庫で保存している人も多くいますが、正しい保存方法なのでしょうか?

結露しやすいのでNGですね。冷蔵庫に入れたならば、食べる1日前に冷蔵庫から取り出し、密閉状態のまま常温になるまで待ってから開けるようにしてください」

また、食べる前に海苔を火などで炙るという人もいます。問題ないのでしょうか?

「炙ることで、海苔本来の香りとうまみが増すという声もあります。ただ、時間が経つと熱に弱い性質を持つ赤と青のうまみ成分が失われてしまうので、炙るならすぐに食べるのがいいでしょう。未開封でも海苔は焼海苔になった時点から時間とともに風味が落ちていくものです。なのでお得だからとまとめ買いをするのではなく、食べられる量を買ってどんどん新しいものを食べていくことが、海苔を無駄なくおいしく食べるコツです。海苔の生産は、海苔漁師さんたちが真冬の冷たい海という過酷な環境下で、厳しい自然を相手に行われています。そんな苦労の末に作られた海苔ですから、正しい保存方法で保存しておいしい状態を味わってくださいね」

 

最後に海苔についての素朴な疑問をぶつけてみました。

Q.海苔の語源は?

「ぬるぬるするという意味の『ぬら』がなまって『のり』になったと言われています。平安時代には『紫菜』と書いて『のり』と呼んでいましたが、その後地方によって呼び名が変わり、江戸時代になっていまの『海苔』という文字が当てられたそうです」

 

Q. 日本以外に海苔を食べるのはどんな国?

「以前は、『ブラックペーパー』と呼ばれ、欧米では敬遠されていた海苔ですが、最近の日本食ブームと栄養豊富なことが注目され、いまではさまざまな国で食べられています。ただ、輸入する国がほとんど。海苔を生産しているのは日本以外だと気候条件が当てはまる韓国や中国が主ですね。他の地域で作られているという話は聞いたことがありません」

Profile

「海苔で健康推進委員会」 関東ブロック代表および専門実行委員 / 斉藤 徹

「海苔で健康推進委員会」に所属し、海苔にまつわる正しい知識の普及に努める。千葉県にて「より良い海苔をお求めやすい価格でのお客様への提供」がモットーの焼きのり専門店「中川海苔店」も運営。

 

取材・文=鈴木翔子 撮影=鈴木謙介