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「いつもの買い物」にちょっとワクワクを。料理研究家・井原裕子さんに聞く
大人世代の「献立アレンジ」と身体が喜ぶ「旬の味わい方」

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30代から40代は、少しずつ身体の不調を感じ始めたり、ライフスタイルが変化したりする時期。そしてそれ以降の大人世代は、心身の悩みがさらに深まっていき、無理が利かなくなってくるものですよね。このような変化の大きい時期においては、毎日の献立や食材の選び方も、もっと自由でいいのかもしれません。

今回お話を聞いたのは、NHK「きょうの料理」や「あさイチ」などのテレビ番組でも活躍中の料理研究家・井原裕子さん。おいしくて、からだ思いで、しかも手軽な「大人のためのいいとこ取りごはん」を提案し、幅広い世代から指示を集めています。今回は、井原さん流・毎日の食卓がワクワクするような「発想の転換」と、大人世代に向けた「自分のためだけのよくばりな献立」について、詳しくうかがいました。

「豚肉がない!」の偶然から誕生。新定番にしたい「鶏むね肉のしょうが焼き」

毎日献立を考え、料理を作っていると、いつのまにか「しょうが焼きといえば豚肉」「付け合わせは千切りキャベツ」といった固定観念にとらわれがちです。その結果、レシピのマンネリ化に悩む人は少なくありません。

しかし、井原さんの料理アイデアは、もっと自由で軽やか。最新刊『大人のためのいいとこ取りごはん』の表紙を飾る「鶏むね肉のしょうが焼き」も、実はふとした思いつきから生まれたといいます。

「鶏むね肉は、高たんぱくでヘルシーな点が魅力です。もともとよく食べていて、常備食材のような存在でした。

ある日、『しょうが焼きが食べたいな』と思ったのですが、たまたま冷蔵庫に豚肉がなくて。ものは試しと、鶏むね肉をそぎ切りにしてしょうが焼きを作ってみたら、ものすごくおいしかったんですよ。年齢的に、豚の脂身が少し重く感じるようになってきた頃でもあり、これが大正解。今ではすっかりわが家の定番メニューになりました。もう、『しょうが焼きは鶏むね肉がいい!』と宣言しているくらいです」

この偶然生まれたレシピは、井原さんの料理教室でも大評判。しっとり柔らかく仕上がるため、硬いお肉を噛むのが難しい高齢の方から、お肉があまり得意ではないというお子さんまで、世代を問わず喜ばれているそうです。

「さらにおすすめしたいのが、付け合わせの『きゅうり』です。しょうが焼きにはキャベツを添えるのが定番ですが、私は断然きゅうり派。塩をふって5分ほどおき、水けを絞るだけなのですが、きゅうりのシャキッとした食感とサッパリした味わいがしょうが焼きにすごく合うんですよ。ぜひ試してほしい組み合わせです」

■鶏むね肉のしょうが焼き

【材料(2人分)】
鶏むね肉(皮なし)…250g
片栗粉…大さじ1
油…大さじ1
A 酒…大さじ1
  しょうゆ…大さじ1と1/2
  みりん…大さじ1
  砂糖…小さじ1
  しょうが(すりおろし)…大さじ1/2

付け合わせ
  きゅうり…1本
  塩…小さじ1/4

【作り方】
1.付け合わせのきゅうりは薄い輪切りにしてボウルに入れ、塩をふって5分ほどおく。
2.鶏肉はキッチンバサミで筋を切り、8等分のそぎ切りにして片栗粉をまぶす。
3.フライパンに油を入れて鶏肉を並べ、中火にかけて2分焼く。上下を返し、さらに1分焼く。Aを順に加えて全体にからめる。器に盛り、1のきゅうりの水けを絞って添える。

「脇役」にしておくのはもったいない! 「三つ葉」と「油揚げ」の知られざる魅力

井原さんのお話を聞いていると、普段私たちが何気なく選んでいる食材の「知られざる魅力」にハッとさせられます。最近、井原さんが注目しているのが、お正月のお雑煮やお吸い物の“添え物”になりがちな「三つ葉」です。

「三つ葉って、なかなか普段の買い物では買わないという方も多いですよね。でも実は、1束100円前後で手に入りやすい、最高の『香味野菜』なんです。わが家では、サッと茹でておひたしにしたり、おそばにたっぷり散らしたり。ミョウガや青じそと同じような感覚で、香りをたのしむ具材としてよく使っています」

また、お鍋の具材として井原さんがレコメンドするのが「油揚げ」。

「油揚げをたっぷり入れると、それ自体がすごくいい『出汁(旨味)』になるんです。特別なものを使わなくても、三つ葉や油揚げのような身近な食材の使い方を少し変えるだけで、いつものお料理がぐっとおいしくなりますよ。

今回の本で紹介している『飽きない寄せ鍋』は、まさに三つ葉と油揚げがいい仕事をしている一品です。一緒に入れる食材として大根を紹介していますが、ほかの野菜でもおいしくいただけます。レタスもシャキシャキして相性抜群なので、一玉があっという間になくなりますよ」

こうした新しい発見をするコツは、毎日の買い物を「義務」にしないことだと井原さんは語ります。

「忙しいと、どうしても知っている食材、いつも買う食材だけをカゴに入れて終わりになりがちですよね。でも、時折スーパーの棚をじっくり見渡してみてください。『こんなものがあったんだ』『ちょっと買ってみようかな』という小さなチャレンジが、食卓のマンネリを防いでくれます。旅先で出会った、地方の珍しい調味料を試してみるのも楽しいですよ」

がんばらなくていい。でも身体は喜ぶ。「いいとこ取り」で楽しむ大人世代の食卓

井原さんは、日々新しいチャレンジを重ねながら、食べることを心から楽しんでいます。その裏には、年齢を重ねて感じるようになった身体への気づきがありました。

「更年期を経て、身体が変わってきたことを実感しています。無理も利かなくなってきているので、食事で体調を整えるということを改めて考え始めました。ただ、昔のようにたくさんは食べられないので、いかに効率よく身体に必要な栄養素を摂るかが重要です。摂りたいのは、たんぱく質が豊富な食材と旬の野菜、そこに海藻や豆類。一品ですべて補うことは難しいですが、主菜と副菜でちょこちょこ摂るように意識すれば、自然と体調が整っていきますよ」

そして、井原さんの献立における「アレンジの自由さ」も見逃せません。ここにも、自由に食を楽しむ、井原流のこだわりが光ります。

「たとえばその一例が、本の中で紹介している『小松菜と豚肉のチャンプルー』。これは小松菜のかわりにナスやトマトで作ってもいいですし、冬ならほうれん草や大根の薄切りなどもおいしいです。つくねもよく作りますが、中に混ぜ込む野菜を季節ごとに変えれば、まったく違う一品に。基本の味付けや作り方の『型』をひとつ覚えておけば、旬の野菜に入れ替えるだけで献立がどんどん広がっていくんです。

旬の野菜は安くておいしい上に、栄養価も高い。季節の移り変わりに合わせて、旬の食材をおいしく取り入れるのが、大人世代の賢い食事の楽しみ方ではないでしょうか」

これから本格的な季節の変わり目を迎えます。少しずつ身体が秋を感じ始めるこの時期は、たとえ日中の気温が高かったとしても、「あたたかい汁物やスープ」で胃腸を労わることを意識しているのだそう。

「誰かのためではなく、今の自分の身体が何を欲しているか。その声に耳を傾けながら、日々の買い出しや料理の中に小さなワクワクを見つけてみてくださいね」

Profile

料理研究家/井原 裕子

料理研究家。食生活アドバイザー、野菜ソムリエ。1963年愛知県生まれ。アメリカとイギリスに約8年間滞在し、訪れた国は20か国以上。各国の料理やスーパー、市場に親しみ、料理と食材を学ぶ。帰国後、料理研究家のアシスタントを経て独立。世界の料理から日本の家庭料理まで、その土地の食べ物、食文化を大切にした料理の提案を得意とし、テレビや雑誌、書籍などで活躍。企業向けのメニュー・商品開発など、フードコンサルティングも行っている。Instagram:@iharayukoo

『大人のためのいいとこ取りごはん』(ワン・パブリッシング)

年齢を重ねるにつれて変化するライフスタイルや食の好みに寄り添い、たんぱく質や鉄分、ビタミンなどの栄養素をバランスよくとれるレシピを提案します。さらに、井原裕子さん推奨の「半つく(野菜などの手軽な下ごしらえ)」や、旬の野菜を使った副菜、スープのレシピも。

取材・文=水谷花楓 カメラマン=邑口京一郎